放牧地への飼料の持ち込みが少なければふん尿由来窒素負荷は少ない
要約
中山間地における小規模移動放牧では、ふん尿由来窒素の負荷はほとんどみられない。水田地帯の周年放牧で冬季に飼料を多量に持ち込む場合、給飼場所を固定すると土壌溶液中のアンモニア態窒素濃度が高くなるが、場所を移動することで負荷が軽減できる。
- キーワード:放牧、土壌、農業用水、硝酸態窒素、アンモニア態窒素
- 担当:中央農研・関東飼料イネ研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8856
- 区分:共通基盤・総合研究、畜産草地
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
中山間地での耕作放棄地や遊休農地の活用法として、小規模移動放牧が全国に普及し始めている。また、水田の有効活用、飼料自給率の向上、家畜飼養の省力化を実現するため、水田で栽培可能な飼料イネや牧草の作付け、稲発酵粗飼料の利用、牧草の放牧利用が推進され、水田地帯でも放牧が導入され始めた。このような場所での放牧は、周辺住民の不安感を軽減するためには放牧が環境におよぼす影響を明らかにする必要がある。そこで、小規模移動放牧および周年放牧における窒素負荷の程度を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 小規模移動放牧における地表層土の窒素濃度についてみると、硝酸態窒素(NO3--N)およびアンモニア態窒素(NH4+-N)は、慣行の栽培をしている野菜畑よりも少なく、水田と平均値が同等であり(図1)、放牧による窒素負荷量の増加はみられない。
- 小規模移動放牧地における付近を流れる農業用水の水質についてみると、NH4+-Nはほとんど検出されず、NO3--N濃度は6放牧地からの暗渠排水で放牧地の上流にある4野菜畑下の用水の濃度に応じて変動するが、4野菜畑下を上回ることはない(図2)。放牧地より下流の用水への窒素負荷はほとんど見られない。
- 水田地帯の周年放牧における土壌溶液中のNH4+-Nについてみると、冬季の飼料給飼場所を固定していた場所(地点6:原物換算で2007~2008年冬季に16.8t、2008~2009年冬季に4.6tを給与)の深さ60cmで、2009年の夏に濃度の上昇がみられた(図3)。しかし、その後給飼場所を変更したことで土壌溶液中のNH4+-N濃度の上昇はみられない(図3)。
成果の活用面・留意点
- 放牧飼養に関する環境影響を評価したものであり、中山間地や水田地帯での遊休農地における放牧の普及に活用できる。
- 給飼場所だけでなく、飲水場など牛が集まり集中的に排糞する場所をつくらない等の対策が必要である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:小規模移動放牧が土壌・水環境に及ぼす影響の解明と評価
- 中課題整理番号:212d.5
- 予算区分:基盤、交付金プロ(飼料イネ周年放牧)
- 研究期間:2006~2010
- 研究担当者:江波戸宗大、山田大吾、手島茂樹、千田雅之