シナリオベースの比較LCAによる地域バイオマス利用モデルの評価

要約

シナリオ(地域の将来方法)を組み入れたLCAによって、バイオマス利用モデルの総合的評価が可能である。現状と将来のモデルをLCAによって比較することにより、バイオマスの他産業との相互利用による環境負荷低減効果を計算することができる。

  • キーワード:バイオマス、バイオ燃料作物、環境影響、地域資源、比較LCA
  • 担当:中央農研・環境影響評価研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8481
  • 区分:バイオマス
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

バイオ燃料作物の栽培過程における環境負荷を低減する一方策として、地域内のバイオマス資源を他産業と相互利用することが有効と考えられる。その評価の際に必要とされるのは、地域の将来方向を示すシナリオを明示的に組み入れた総合的な環境影響評価である。そこで、カンショを中心とした地域農業システム(南九州K市)を事例とし、LCAによってバイオマス利用モデルと従来モデルの比較を行い、地域バイオマス資源の利用による環境負荷低減効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 現状および将来のシナリオの策定と比較した結果(図1、図2)、新たなバイオマス利用モデルでは従来モデルと比較して、地域内の約400haの耕作放棄地を活用したバイオエタノール用のカンショ栽培を中心に、畜産業やでんぷん・焼酎産業とのバイオマス資源の相互利用が図られている点が異なっている。この将来モデルに対して、多収量品種や抵抗性品種の開発および直播といったカンショの栽培技術の改善を行ったシナリオを第3のモデルとする。
  • LCAによって、主要な影響領域について環境負荷を計算することができる(図3)。新たなバイオマス利用モデルでは、取り上げたすべての影響領域で環境負荷が低減する可能性が高いことがわかる。さらに栽培技術の改善により、環境負荷低減効果がより高まることが示されている。
  • カンショの栽培技術改善を伴うバイオマス利用モデル(第3のモデル)と従来モデルの差(環境負荷低減部分)を求め、それに占める各改善要因の割合を示すことができる(図4)。影響領域ごとに要因のシェアは異なり、複数の要因が組み合わさって全体の環境負荷が低減している様子がわかる。

成果の活用面・留意点

  • 地域単位の詳細なシナリオを組み入れたLCAは、バイオ燃料生産だけでなく、地域の農業生産に関する幅広い研究に利用可能である。
  • LCAの実施にあたっては、モジュール化したライフサイクルインベントリ(LCI)データベースを用いている。また、環境負荷の配分問題を回避するためシステム拡張の考え方を採用しており、食肉生産等も評価範囲に含んでいる。
  • シナリオを実際に実行するかどうかを決定するためには、環境影響以外の要因も考慮し、具体的かつ詳細なデータ収集に基づいた判断が必要とされる。

具体的データ

従来モデル( 現状)新たなバイオマス利用モデル( 将来)

新たなバイオマス利用モデルの導入に よる環境負荷の低減:「従来モデル」の 負荷を1 とした相対的な値環境負荷低減部分の内訳:「従来モデル」 と「バイオマス利用モデル(カンショ栽 培技術の改善を伴う場合)」との差(環 境負荷低減部分)に占める各改善要因の 割合

その他

  • 研究課題名:環境影響の統合化と環境会計による農業生産活動評価手法の開発
  • 中課題整理番号:214a
  • 予算区分:基盤、委託プロ(バイオマス)
  • 研究期間:2006~2010年
  • 研究担当者:林清忠、内田晋(特別研究員)、渡辺輝夫、杉浦綾