スクレイピー由来異常プリオンタンパク質の土壌からの高感度検出法
要約
Protein misfolding cyclic
amplification(PMCA)を応用することにより、土壌中のスクレイピー由来異常プリオンタンパク質を抽出法よりも高感度に検出することができる。
- キーワード:スクレイピー、Chandler株、異常プリオンタンパク質、PMCA、土壌
- 担当:中央農研・土壌生物機能研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8828
- 区分:共通基盤・土壌肥料、関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
牛海綿状脳症(BSE)やヒツジのスクレイピー等、伝達性海綿状脳症(プリオン病)の感染性因子プリオンは、異常プリオンタンパク質(PrPSc)を主たる構成成分としている。スクレイピープリオンの感染性は土壌中で数年間残存することが知られており、土壌を介した水平感染の可能性を評価するためには、PrPScの土壌中での動態を解析する必要がある。しかしながら、これまで報告されている土壌からのPrPScの抽出方法等は、土壌中の微量のPrPScを検出するためには不十分である。
Protein misfolding cyclic amplification(PMCA)は、試験管内でPrPScを増幅する方法であり、通常のウェスタンブロットでは検出できないようなごく微量のPrPScを検出するために極めて有効である。
ここでは、PMCAを応用して、土壌からスクレイピーPrPScを高感度に検出する方法を開発することを目的とする。
成果の内容・特徴
- マウス順化スクレイピーChandler株を添加した土壌を懸濁し、反応液に添加してPMCA反応を行う。反応後のサンプル1/10量を植え継いでPMCAを繰り返し行う。PMCA産物をproteinase Kで消化した後、ウェスタンブロットでシグナルを検出する。
- 100μlの反応液に添加する土壌の量を少量にすることにより、1回のPMCAで高濃度の感染マウス脳を含むサンプルでPrPScの増幅が認められる。PMCAを繰り返し行うことにより、低濃度の感染マウス脳を含むサンプルでもPrPScが増幅される。一方、反応液に添加する土壌の量を増やすと、反応液に添加されるPrPScの量が増えるにも関わらず、増幅は認められない(図1)。
- 抽出法によるPrPScの検出では、高濃度の感染マウス脳を添加した場合しかPrPScは検出されない。また、灰色低地土と淡色黒ボク土で検出感度が異なる(図2)。一方、PMCAの検出感度は土壌の種類の影響を受けにくく、抽出法と比較して灰色低地土の場合1000倍、淡色黒ボク土の場合10000倍高い(図3)。
成果の活用面・留意点
- 土壌中におけるPrPScの消長解析等に利用できる。
- 全自動交差超音波蛋白質活性装置Elestein 070-GOT(エレコン科学)を用いてPMCAを行った結果である。
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他の動物種や株由来のPrPScの増幅のためには、新たな増幅条件の検討が必要である。
具体的データ



その他
- 研究課題名:プリオン病の防除技術の開発
- 中課題整理番号: 214j
- 予算区分: 委託プロ(BSE)
- 研究期間:2003~2007年度
- 研究担当者: 長岡一成、吉岡都、下嵜紀子、山村友昭、村山裕一、横山隆、毛利資郎
- 発表論文等:Nagaoka K. et al. (2010)
Biochem. Biophys. Res. Commun. 397 (3) :626-630