トマトにおける低分子量キチンのキュウリモザイクウイルス感染抑制効果
要約
接種2日前に低分子量キチン(LMC)の2,000倍希釈液をトマト地上部に散布しておくことによって、トマトへのキュウリモザイクウイルスの感染が抑制されて発病株が激減する。
- キーワード:キチン、キュウリモザイクウイルス、トマト、誘導抵抗性
- 担当:中央農研・生物的病害制御研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8885
- 区分:共通基盤・病害虫
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分類:研究・参考
背景・ねらい
天然素材処理による抵抗性誘導を利用した作物病害の防除については、糸状菌病や細菌病では多くの知見が得られているが、ウイルス病に関してはほとんど研究されていない。そこで、これまでに抵抗性誘導効果が明らかにされている3種類の天然素材を供試し、トマトにおけるキュウリモザイクウイルス(CMV)の防除効果について検討を行う。供試3剤は、キャベツ根こぶ病防除に効果を示すキチン(LMC)、トマト青枯病に有効な酵母抽出液(アグリボEX)、トウガラシマイルドモットルウイルスの感染抑制効果を持つセルラーゼ(アクレモスプレー)である。
成果の内容・特徴
- トマト幼苗(品種:桃太郎または大型福寿、播種10-20日後)に2,000倍に水道水で希釈したLMCを散布し、その2日後にCMV感染タバコ葉磨砕液や純化ウイルス(10μg/ml程度)を機械的に接種すると、CMVの感染がほぼ抑制される(表1)。酵母抽出液やセルラーゼでは、CMV発病抑制効果はほとんど認められない。
- CMV抗血清を用いた間接エライザ法によってウイルス増殖の有無を検定した結果、ほとんどの場合に発病株では接種葉でも上位葉でもCMVが増殖しており、非発病株では接種葉でも増殖していないことからLMCの効果は、感染抑制効果が主体であると考えられる。
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秋作トマトのハウス試験において、接種2日前から1週間に1度、計4回のキチンを散布すると、水対照区と比べて感染率を6分の1に低下させることができ、高いCMV感染抑制効果を示す(表2)ことから、LMC散布は現地栽培条件下でも有効であると思われる。
成果の活用面・留意点
- 同じCMVでも作物が異なると有効な剤が異なる場合があるので、あらかじめ有効なものを作物とウイルスの組み合わせに応じて個別に検討しておく必要がある。
- 現時点のLMC処理法では、CMV感染を100%防止することは必ずしもできないので、発病株が現れたら早期に除去するなどの注意が必要である。アブラムシ伝染防止効果や接触伝染防止効果についてはまだ確認できていない。
- LMCの感染防止効果はCMV感染抑制が主体と思われるが、エライザでは検出できない程度のCMVが増殖している可能性は残されている。
- LMCは農薬登録されていないため、現時点での病害防除剤としての利用はできない。
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CMV接種後にキチン処理をしても病徴軽減効果は認められないことから、成苗でも接種2日前の散布のみが感染抑制効果に直接関係すると思われ、今後、散布回数を削減できる可能性がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:誘導抵抗性を利用したキュウリモザイクウイルスの防除技術の開発
- 中課題整理番号:214d
- 予算区分:交付金プロ「植物免疫」、基盤研究費
- 研究期間:2009-2010年度
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研究担当者:花田 薫、門田育生、奥田 充、堀田優理子(焼津水産(株))、又平芳春(焼津水産(株))