日本のイネいもち病菌の真性抵抗性(Pita)に対する病原性変異の特徴と検出法
要約
日本のイネいもち病菌は、非病原性遺伝子AVR-Pita1JA(JA)とほぼ同じ塩基配列の遺伝子avr-Pita1JB(JB)を保有するが、JAを欠失することによりPita保有品種に病原性を獲得する。JAのみを特異的に検出するPCR法によって病原性獲得菌を判別できる。
- キーワード:イネいもち病菌、真性抵抗性、非病原性遺伝子、Pita、AVR-Pita1JA、avr-Pita1JB
- 担当:中央農研・病害抵抗性研究チーム
- 代表連絡先:電話025-526-3242
- 区分:関東東海北陸農業・北陸・生産環境、共通基盤・病害虫(病害)
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
国内の圃場で採集されるイネいもち病菌株の99%以上が真性抵抗性遺伝子Pitaを保有するイネ品種に病原性を示さないことが明らかになっている(小泉ら2007)。このため、Pitaはいもち病の防除を目的としたマルチラインに利用されている。しかし、マルチラインの安定利用には、病原性を獲得した変異菌の発生を監視する必要がある。そこで、日本のイネいもち病菌が非病原性遺伝子(AVR-Pita1)にどのような変異を起こしてPita保有品種に対して病原性を獲得するのかを解明し、病原性を獲得した菌を判別するPCR法を確立する。
成果の内容・特徴
- 国内の圃場分離菌株の多くは、非病原性遺伝子JAとそれと比較して3塩基のみ異なる配列の遺伝子JBを保有する。
- JAに変異が起こりPita保有品種に対する病原性を獲得するが、JBは病原性の変異に関与しない(表1、表2)。
- 非病原性の圃場分離菌株(OS99-G-7a)から生じる病原性獲得菌株の95.4%は、JAの欠失によるものである(表2)。全国各地から採集した圃場分離菌株のAVR-Pita1の解析結果も病原性獲得の多くはJAの欠失によって起こることを示唆する(表1)。
- ほとんどの圃場分離菌株でJBのような病原性に関与しないavr-Pita1を保有しているのは、日本のいもち病菌の特徴であり、アメリカ合衆国に分布する菌の場合(Zhouら2007)と異なる。
- JBを増幅せずJAのみを特異的に検出するPCR法によって、JAの欠失による病原性獲得菌を判別できる(図1)。
成果の活用面・留意点
- 本PCR法は、病原性獲得菌の発生状況の調査に利用できる。
- 本PCR法では、病原性獲得菌株の約5%を占めるJAの点変異やプロモーター領域の変異は検出できない。
- JAの欠失による変異を調べる場合には、対象とする菌株に加えてJAのみ保有する菌株とJBのみを保有する菌株についてもPCRを行い、JAが特異的に検出されることを確認する。
具体的データ



その他
- 研究課題名:食用稲における病害抵抗性の強化のための遺伝子単離と機作の解明
- 中課題整理番号: 221f
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2006?2009年度
- 研究担当者: 高橋真実、芦澤武人、平八重一之、森脇丈治、曾根輝雄(北大院農)、園田亮一、野口雅子、
永島進(島根農技センター)、石川浩司(新潟農総研)、荒井治喜
- 発表論文等:Takahashi M. et al. (2010) Phytopathology 100 (6) : 612-618.