耕うん同時畝立て播種はオオムギの越冬後の湿害を軽減する

要約

オオムギの耕うん同時畝立て播種は、慣行の畝を立てない散播と比較すると、越冬後の畝上部の土壌粗間隙率が高く維持されること、純同化率を高く維持することで個体群生長速度が高くなることから、越冬後の湿害を軽減し、積雪地域での増収が期待できる。

  • キーワード:オオムギ、耕うん同時畝立て播種技術、湿害軽減、成長解析、土壌粗間隙率
  • 担当:新世代水田輪作・重粘地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北陸研究センターで開発された耕うん同時畝立て播種技術は、ダイズの出芽時の湿害を軽減し、苗立ちを安定させることが明らかになっている(2003、2006、2007年度成果情報)。積雪地域のオオムギ栽培は、重粘な水田で畝を立てない散播で行われており、春季の融雪水が大量に発生することから、安定した収量を得るには湿害の軽減が重要である。現在、湿害軽減、増収効果を期待して同技術のムギ類への普及が進んでいる。そこで、積雪地域において耕うん同時畝立て播種技術がオオムギの生育・収量に及ぼす影響を検討し、増収要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 耕うん同時畝立て播種は、慣行の畝を立てない散播と比較して同程度の穂数を確保しながら、1穂整粒数を増加させ、収量を増加させる(表1)。
  • 耕うん同時畝立て播種によって栽培されたオオムギは、畝を立てない散播と比較して越冬後、個体群生長速度が高くなる。越冬後の個体群生長速度は、葉面積の拡大ではなく、高く維持された純同化率の影響を受ける(図1)。
  • 耕うん同時畝立て播種によって、地下水位面が、畝を立てない散播と比較して、生育期間を通じて相対的に低く維持される(図2)。
  • 畝上部の粗間隙率が10月から4月にかけて高く維持されることから、耕うん同時畝立て播種は、越冬後、散播と比較して、気相率が高い好気的な根圏環境を維持していると考えられる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 新潟県上越市内の圃場(細粒質グライ低地土)で、ミノリムギを用いて行った試験結果である。生育に影響を及ぼすような病害虫は発生していない。
  • 耕うん同時畝立て播種は、平高畝、耕うん幅(畝幅)160cm(床幅150cm)、条間27.5cmで5条播種とした。散播は、ダウンカットロータリで耕うん後、土壌表面に散播し、覆土は行わなかった。
  • 粗間隙率は、400mLコア-で採取した土壌を用いて、毛管飽和した後、砂柱法(pF1.5)で排水された間隙のこととした。
  • 根雪期間がある積雪地帯等、春先に湿害が発生する場面において活用できる。
  • 土性、降雨条件等によっては、湿害軽減効果に差があることを留意する必要がある。

具体的データ

表1 収量および収量構成要素

(池永幸子)

その他

  • 中課題名:多雪重粘土地帯における播種技術及び栽培管理技術の高度化による水田輪作システムの確立
  • 中課題番号:111b2
  • 予算区分:水田底力4系、交付金
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:池永幸子、細川寿、足立一日出、大野智史、関正裕
  • 発表論文等:池永ら(2012)日本作物学会紀事、81(1):49-55