多雪重粘土地帯における低コスト水田輪作体系技術

要約

耕うん同時畝立て播種機の大麦・大豆汎用利用による麦後大豆の狭畦多条播栽培、大麦の耕うん同時播種作業およびエアーアシスト水稲条播機による高能率作業を組合せた水田輪作体系では、作業の競合回避、収量向上、省力化が図られ、費用削減につながる。

  • キーワード:耕うん同時畝立て播種機、水稲直播、麦後大豆狭畦多条播、費用削減
  • 担当:新世代水田輪作・重粘地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北陸地域は多雪気象で重粘な土壌が広く分布し、湿害が発生しやすいため、主な転換作物である大麦や大豆の収量安定化を図るとともに、各作目間の作業競合を解消し、輪作体系による安定的な生産と費用削減が重要な課題となっている。本研究では、費用を2003年の現状(生産費調査)に対して半減することを目標に、湿害軽減を目的に開発された大豆用耕うん同時畝立て播種機の汎用化、麦後大豆を狭畦多条播栽培の活用、高能率なエアーアシスト水稲条播機を組合せた体系の確立を目的とする。

成果の内容・特徴

  • 大区画圃場両側低段差農道整備地域の大規模水田作経営において、耕うん同時畝立て播種機の汎用利用とエアーアシスト水稲条播機による水稲直播-大麦条播-大豆狭畦多条播の新技術体系は、(1)大麦の一工程播種が可能であるため、慣行作業体系より作業可能日数が多く確保できる、(2)耕うん同時畝立て播種機の汎用化により大豆は大麦と同じ播種機で狭畦多条播を可能とする、(3)エアーアシスト条播機は、作業幅約10mと広いために播種作業時間が短く(最大2ha/h)適期作業および負担面積の拡大を可能とする、特徴をもつ(表1)。
  • 2007~2011年までの現地実証試験の結果、(1)大麦では、融雪後の湿害が軽減し、2003年比約1割(新潟県2007~2010年の平均に比較して約7割)増収、(2)大豆では、畝立て播種と狭畦多条播栽培の組合せで、一工程播種による適期播種や中耕培土の省略、梅雨時期の麦後大豆播種における湿害軽減と晩播による生育量低下を回避し2003年比約3割(新潟県2007~2010年平均比約5割)増収、(3)水稲では、作業時間が大幅に削減でき、移植並みの収量が確保される(図1)。
  • 10a当たり労働時間を2003年生産費調査から算出した目標と比較すると、新技術導入の省力化効果は水稲と大豆は大幅減少し、大麦はほぼ同等となる(図2)。
  • 1俵当たりの費用を2003年生産費調査等から算出した目標と比較すると、新技術導入の費用削減効果は水稲45%、大麦18%、大豆23%となる。作目全体では約35%の削減となる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 耕うん同時畝立て播種技術については2003、2006、2007年度研究成果情報、輪作体系技術については「寒冷地2年3作における水田輪作体系マニュアル(中央農業総合研究センター:2012年2月刊)およびプロジェクト研究成果集「超コスト作物生産技術の開発」(農林水産省:2012年)を参照。エアーアシスト水稲条播機は特許出願2件(特開2011-167111および特開2011-167112)。
  • 耕うん同時畝立て播種技術の麦後大豆狭畦多条播栽培や大麦汎用利用は富山県や長野県で導入。
  • エアーアシスト高速条播機は試作機の貸し出し等の対応が可能。

具体的データ

図1 現地実証圃場における作目別収量

(関正裕、塩谷幸治)

その他

  • 中課題名:多雪重粘土地帯における播種技術及び栽培管理技術の高度化により水田輪作システムの確立
  • 中課題番号:111b2
  • 予算区分:水田底力4系、交付金
  • 研究期間:2007~2011年度
  • 研究担当者:関正裕、塩谷幸治、大野智史、中山則和、池永幸子、古畑昌巳、塚本隆行、片山勝之、細川寿
  • 発表論文等:1)古畑昌巳ら(2011)北陸作物学会報、46:45-48
    2)塩谷幸治ら(2011)農村経済研究、29(2):36-43
    3)池永幸子ら(2012)日本作物学会紀事、81(1):49-55