安全で簡便かつ低コストな畑土壌中水溶性リン酸の現場型測定法
要約
土壌試料を薄層にすることにより、振とうを行わなくても畑土壌中の水溶性リン酸を抽出することができる。その抽出液は、リン酸簡易測定キット並びに簡易吸光度計を用いて、一定の精度を保ちつつ、安全、簡便、低コストに分析できる。
- キーワード:リン酸、水溶性、畑土壌、簡易水質検査キット、簡易吸光度計
- 担当:総合的土壌管理・土壌養分管理
- 代表連絡先:029-838-8481
- 研究所名:中央農業総合研究センター・土壌肥料研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年の肥料原料価格高騰や有機質資源の利用促進を背景として、土壌診断に基づく施肥管理の重要性が高まっており、農業生産現場において実施可能な土壌中リン酸の簡易評価法の開発が求められている。土壌中有効態リン酸測定における定法は、まず強酸を含む抽出液及び振とう用の専用機械を用いて土壌からリン酸を抽出し、次に強酸や重金属を含む試薬を用いた化学反応を行ったのち機器分析を行うものであり、現場適用性に乏しい。一方、従来の簡便法では、定量性が不十分な目視判定(色見本との比較)によるか、少なくとも数万円の装置を用いた定量が必要である。そこで、抽出から分析に至る全行程にわたり安全、簡便、低コストな畑土壌中水溶性リン酸の測定法を開発する。
成果の内容・特徴
- 抽出時に土壌試料が薄い層となるよう、十分な広さの容器を用いて水抽出を行うと、振とうを行わなくても振とうした場合と同様に畑土壌中の水溶性リン酸が抽出され(図1)、その量は定法同様に施設を含めた畑土壌の広範なリン蓄積度を反映する(図2)。
- 市販の毒劇物フリーのリン酸簡易測定キット(酵素による4-アミノアンチピリン法。以下、酵素法)は定法とは測定原理が異なるが、同様の測定結果が得られる(図3)。
- 酵素法は測定範囲が極めて広いため、希釈操作が簡素になる。また、反応途中に検液へ若干量の試料を追加したり、反応後に検液へ水を追加してもリン酸濃度と吸光度の直線関係は失われないため、試料濃度未知の場合でも再測定のおそれはない。
- 近年市販された低廉なLED式簡易吸光度計は、酵素法により生じる色素の吸収極大波長540nm付近の緑色光を照射するため、酵素法による定量分析に利用できる。不振とう水抽出・酵素法・LED式簡易吸光度計の組み合わせにより、リン蓄積程度が大幅に異なる様々な畑土壌について幅広く安全、簡便、低コストに定量的把握ができる(図4)。
成果の活用面・留意点
- 水田土壌は未検討である。
- 1日以上の長時間の抽出やチャック付ポリ袋内での抽出といった、酸素欠乏状態になりやすい条件ではリン酸抽出量が増加し、過大評価となるおそれがある。
- 硝酸態窒素の簡易水質検査キット並びにこの簡易吸光度計を併用することにより、水溶液中の硝酸態窒素の定量も可能である。
- リン酸簡易測定キットは(株)共立理化学研究所のパックテスト/りん酸(低濃度)/WAK-PO4(D)(\4,200(40検体分))を、簡易吸光度計はハンナインスツルメンツ・ジャパン(株)のChecker HCシリーズ吸光度計/リン酸塩/HI 713型(\8,190)を用いた結果である。
具体的データ
(金澤健二、駒田充生、加藤直人)
その他
- 中課題名:土壌・資材の評価と肥効改善による効率的養分管理技術の開発
- 中課題番号:151a1
- 予算区分:気候変動プロ
- 研究期間:2009~2011年度
- 研究担当者:金澤健二、駒田充生、加藤直人
- 発表論文等:簡易測定用試薬と簡易吸光度計を用いた畑土壌分析マニュアル