植物の忌避および誘引作用を利用したミカンキイロアザミウマの行動制御

要約

ジャスモン酸メチルを処理した忌避植物とトマト黄化えそウイルスを感染させた誘引植物の植栽配置を工夫することにより、ミカンキイロアザミウマ成虫の行動、後代の幼虫数および食害痕数が制御される。

  • キーワード:ミカンキイロアザミウマ、トマト黄化えそウイルス、ジャスモン酸、忌避作用、誘引作用
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アザミウマ類を効果的に防除するため、農薬などの化学的防除技術、防虫ネット、粘着トラップ等を用いた物理的防除技術、さらに天敵昆虫等による生物的防除技術等が研究・開発されてきた。しかしながら、アザミウマ類は農薬に対する抵抗性を容易に発達させることや、微小であるために圃場への飛来を遮断できないことから依然として防除が困難である。そこで、アザミウマ類に対して忌避や誘引作用を示す植物の植栽配置を工夫した新たなアザミウマ類制御法の基盤的技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 100μMのジャスモン酸メチル(MeJA)をシロイヌナズナに処理することにより、ミカンキイロアザミウマに対する忌避効果が発揮される。一方、トマト黄化えそウイルス(TSWV)をシロイヌナズナに接種することにより、ミカンキイロアザミウマに対する誘引効果が発揮される。
  • そこで、MeJA処理をして2日後のチョウセンアサガオ(保護対象植物)を温室の中央に配置し、その外周にTSWVを接種したチョウセンアサガオ(TSWV接種植物)を配置する(図1)。次に、保護対象植物にミカンキイロアザミウマの雌成虫20頭を放飼し、外周に配置したTSWV接種植物へのアザミウマの移動を経日的に測定する。さらに、保護対象植物およびTSWV接種植物で孵化した次世代のアザミウマの幼虫数ならびに食害痕数を測定し、保護対象植物におけるアザミウマによる被害程度を評価する。
  • 保護対象植物に放飼したミカンキイロアザミウマの雌成虫20頭は、その外周に配置したTSWV接種植物へ時間の経過に伴って移動する(図2)。また、保護対象植物に発生するアザミウマの幼虫数および食害痕数は減少する(表1)。
  • 保護対象植物とTSWV接種植物を配置する距離が100cm以内の場合、ミカンキイロアザミウマはTSWV接種植物へ効果的に移動し、保護対象植物に発生する次世代のアザミウマ幼虫数および食害痕数も減少する。
  • 保護対象植物とTSWV接種植物の数の比が4:2、4:3および4:4の場合に、ミカンキイロアザミウマはTSWV感染植物へ移動する。また、保護対象植物における次世代のアザミウマ幼虫数および食害痕数も減少する。

成果の活用面・留意点

  • ミカンキイロアザミウマ発生圃場において、ジャスモン酸が主成分の植物ホルモンを保護対象植物に処理することでアザミウマに対する忌避性を発揮させ、その周囲に虫媒性欠損TSWVを接種したおとり植物を配置してアザミウマを誘引することにより、保護対象植物に対するアザミウマの加害活動を軽減させる基盤的防除技術となる。

具体的データ

図1 ジャスモン酸メチル処理およびトマト黄化えそウイルス(TSWV)接種植物の植栽配置
図2 各実験区におけるミカンキイロアザミウマ分布率の経日的変化
表1 各実験区におけるミカンキイロアザミウマ分布率、幼虫数比率および食害痕数比率*

(冨高保弘)

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題番号:152a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010年~2011年度
  • 研究担当者:冨高保弘、櫻井民人、安部洋(理研BRC)、津田新哉
  • 発表論文等:1) 津田ら「植物ホルモン関連物質を処理した忌避植物と植物ウイルスを接種したおとり植物の植栽配置による微小害虫アザミウマ類制御技術」特願2011-024034
    2) Abe H. et al. (2012) Plant Cell Physiol. 53(1): 204-212