天然テルペノイドであるスクラレオールはサツマイモネコブセンチュウ感染を抑制する

要約

ジャスモン酸を処理したトマトの根からネコブセンチュウ侵入抑制効果を持つ単一有効物質を抽出できる。有効物質は既知天然テルペノイドのスクラレオールであり、植物ホルモンのエチレンシグナル伝達系を介して線虫に作用している。

  • キーワード:サツマイモネコブセンチュウ、ジャスモン酸、テルペノイド、スクラレオール
  • 担当:環境保全型防除・天敵利用型害虫制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-8939
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物は昆虫、線虫、病原菌などの外敵の摂食・寄生に対し様々な防御戦略を使い分けているが、植物に寄生するネコブセンチュウに対する植物の防御戦略の様相はほとんど解明されていない。ネコブセンチュウの幼虫の寄主植物への定位には植物から放出される物質が関与するとされ、ジャスモン酸を処理したトマトの数種の植物遺伝子の発現はネコブセンチュウの根への侵入抑制と相関している。ジャスモン酸を処理したトマト根でみられた線虫侵入抑制は、ジャスモン酸によって誘導された「線虫の侵入を抑制するいくつかの物質」による効果である可能性が示唆されるため、これらの物質を単離・同定し、それらの特性並びに作用機作を解明する。

成果の内容・特徴

  • ジャスモン酸を処理したトマトの根から酢酸エチルを用いて極性ごとに物質の分画・抽出を行い、各画分を供試した植物におけるネコブセンチュウの侵入数を評価すると、中性画分と酸性画分に有意なネコブセンチュウの侵入抑制効果が見られる(図1)。
  • ネコブセンチュウ侵入抑制効果を持つ中性画分の分画を繰り返し、その都度、得られた画分を植物に供試し、ネコブセンチュウを接種してその侵入数から効果を評価することにより、強いネコブセンチュウ侵入抑制効果を持つテルペノイドであるスクラレオール(C20H36O2)が単離される。
  • ネコブセンチュウ侵入抑制に対するスクラレオールの有効処理濃度は100μM以上であり、処理から2日以上経過するとネコブセンチュウ侵入抑制効果が発現する(図2A、B)。
  • スクラレオール類縁体であり天然由来のスクラレオライド(C16H26O2)には、同上処理条件でネコブセンチュウ侵入抑制効果がないことから、ネコブセンチュウ侵入抑制効果はスクラレオールに特異的であることが示唆される(図3)。
  • シロイヌナズナの各種植物ホルモン伝達経路欠損変異体(サリチル酸・ジャスモン酸・エチレン・アブシジン酸)においてスクラレオール処理によるネコブセンチュウの侵入数を評価すると、エチレン欠損変異体でのみ侵入抑制効果が認められないことから、スクラレオールがエチレンシグナル伝達系を介して線虫に作用していることが明らかである(図4)。

成果の活用面・留意点

  • スクラレオール放出・産生量を制御する植物の遺伝子の特定は、ネコブセンチュウ抵抗性品種の育種に応用できる可能性がある。
  • スクラレオールを直接ネコブセンチュウ防除に利用するためには、有効濃度や処理方法の検討が必要である。

具体的データ

図1.各極性画分処理植物(トマト)におけるネコブセンチュウ侵入数
図2. スクラレオールによるネコブセンチュウ侵入抑制
図3. スクラレオールおよびスクラレオライドの構造式図4. エチレン欠損変異体にスクラレオールを処理した時のネコブセンチュウ侵入数

(藤本岳人、水久保隆之)

その他

  • 中課題名:土着天敵等を利用した難防除害虫の安定制御技術の構築
  • 中課題番号:152b0
  • 予算区分:交付金、実用技術(2008-2011年度)
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:水久保隆之、藤本岳人、瀬尾茂美(生物研)
  • 発表論文等:特願2011-06470「センチュウ抵抗性誘導剤及びセンチュウ防除方法」