輸出上の障害となるコーヒーオオハリセンチュウの植木産地からの初記録

要約

千葉県植木生産ほ場内のイヌツゲ根辺土壌から検出されたオオハリセンチュウは、植木・盆栽類の海外輸出に際し輸入国植物検疫で厳しい検疫措置の対象となる本邦未記録のコーヒーオオハリセンチュウおよび未記載種である。

  • キーワード:Xiphinema brevicolle、千葉県、イヌツゲ、輸出、植物検疫
  • 担当:環境保全型防除・侵入病害虫リスク評価
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

オオハリセンチュウ属(Xiphinema)は主に多年生草本や樹木類の根に寄生する植物寄生性線虫である。本属は植物ウイルス媒介種を含むため、農業上、特に植物検疫において重視される。日本においては、ブドウファンリーフウイルスを媒介するブドウオオハリセンチュウ(Xiphinema index)が本邦未発生の重要病害虫として特定重要病害虫に指定され、特にその侵入が警戒されている。近年、植木・盆栽類の輸出額が増大しており、注目を集めている。一方、特に欧州における植物検疫での有害線虫発見による検疫措置の増加により、輸出コストが増大している。ここで特に問題となるのがオオハリセンチュウである。日本国内において植木・盆栽類に寄生する線虫類に関する知見はそれほど多くないため、植木類の主要産地の一つである千葉県において、オオハリセンチュウの寄生状況を調査する。

成果の内容・特徴

  • 千葉県匝瑳市内の植木生産ほ場に生育するイヌツゲ苗の根辺土壌サンプルからXiphinema americanum-group種群に属するオオハリセンチュウが分離・検出される。
  • 同一土壌サンプル内において近縁2種が混発していることが、ミトコンドリアCOI領域の塩基配列情報からわかる(図1)。
  • 形態学的特徴から、検出された2種はコーヒーオオハリセンチュウX. brevicolle Lordello et Costa, 1961および未記載種Xiphinema sp.である(図2、表1)。
  • コーヒーオオハリセンチュウは本邦初記録である。

成果の活用面・留意点

  • 今回検出・同定されたオオハリセンチュウ2種は、特に欧州諸国の輸入植物検疫で発見された場合に厳しい検疫措置の対象となるXiphinema americanum-group種群に属する線虫種であるため、本情報は植木・盆栽類の輸出における寄生線虫類の診断およびその管理に役立つ。
  • Xiphinema americanum-group種群に属する種の分類学的地位はいまだ確立されておらず、今後種の統合や細分化による種名の変更が起こりうる。

具体的データ

表1 主な形態計測値
図1 近縁種データを用いた分子系統樹上における供試線虫の位置図2 雌成虫の形態図

(酒井啓充、水久保隆之)

その他

  • 中課題名:侵入病害虫リスク評価
  • 中課題番号:152e0
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:酒井啓充、武田 藍(千葉農林総研)、水久保隆之
  • 発表論文等:Sakai, H. et al. (2011) ZooKeys 135: 21–40.