簡易吸光度計を用いた畑土壌可給態窒素の定量分析

要約

畑土壌の可給態窒素の判定法において、COD測定用試薬セットと簡易吸光度計を併用することにより、目視によらず、きめ細かに数値把握することができる。

  • キーワード:可給態窒素、簡易測定、COD測定用試薬セット、簡易吸光度計
  • 担当:環境保全型農業システム・有機農業体系
  • 代表連絡先:029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・土壌肥料研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年の肥料原料価格高騰や有機質資源の利用促進を背景として、土壌診断に基づく施肥管理の重要性が高まっており、農業生産現場において実施可能な土壌肥沃度の簡易評価法の開発が求められている。土壌の窒素肥沃度の指標として重要な診断項目でありながら測定法が煩雑であるため汎用されてこなかった可給態窒素についても、簡易判定法が近年開発され、今後の活用が見込まれている(2009年普及に移しうる成果「80°C16時間水抽出とCOD簡易測定キットによる畑土壌可給態窒素の簡易判定」(COD:化学的酸素要求量)。以下、簡易判定法)。特に有機農業においては慣行農法よりもやや高めの地力窒素の確保が重要であることが近年明らかにされており、現場への普及を念頭に置いた簡易判定法によるデータ蓄積が望ましい。しかしながら、簡易判定法は色見本との比較によっておおまかに数値化する方法であるため、精度の確保に課題がある。そこで、分析段階においてよりきめ細かに、目視によらず数量把握できる手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 近年市販された低廉なLED式簡易吸光度計は、COD測定における酸化剤である過マンガン酸イオンの吸収極大波長域520-540nm付近の緑色光を照射するため、ブドウ糖のCOD(理論値)にして概ね10ppmOまでのCODの定量分析に利用可能である(図1)。
  • 80°C16時間水抽出による抽出液中の有機物量は可給態窒素肥沃度水準に正比例する。TOC分析装置が利用可能な場合にはこれを用いて抽出液中の有機態炭素を分析するが、簡易判定法では色見本を用いたCODの判定結果をもとに可給態窒素を推計する。これに対し、簡易吸光度計用のCOD測定用試薬セットと簡易吸光度計を併用すれば、色見本による判定では多くとも12段階程度までの評価であったのに対し、170段階程度までの評価が可能であり、抽出液中の有機物量のきめ細かな把握が可能となる(図2)。
  • 露地野菜を中心とした有機栽培圃場の土壌について80°C16時間水抽出を行い、簡易吸光度計用のCOD測定用試薬セットと簡易吸光度計を併用してCODを定量した結果から可給態窒素を予測でき(図3)、その精度はTOC分析装置を用いた場合と大差がない。
  • 具体的な測定手順は図4のとおりであり、標準的な希釈率で可給態窒素25mgN/100g乾土程度まで簡便かつ定量的に畑土壌中の可給態窒素を把握できる。

成果の活用面・留意点

  • 茨城県石岡市において露地野菜を中心とした有機栽培畑圃場から採取された土壌試料を用いて評価した結果であり、水田土壌は未検討である。
  • 有機農業へ新規参入する際の地力把握等の場面で活用できる。
  • 通常の分光光度計を用いた分析も可能である。
  • COD測定用試薬セットは(株)共立理化学研究所の水質測定用試薬セットLR-COD-B(\4,830(30検体分))を、簡易吸光度計はハンナインスツルメンツ・ジャパン(株)のChecker HCシリーズ吸光度計/リン酸塩/HI 713型(\8,190)を用いた結果である。

具体的データ

図1 COD測定用試薬セットを用い調製した反応液の簡易吸光度計における読み値とCOD濃度の関係図2 畑土壌中有機態炭素量と簡易分析によるCOD量の関図3 可給態窒素と簡易分析によるCOD量の関係
図4 COD測定用試薬セットと簡易吸光度計を用いた畑土壌中可給態窒素の推計手順

(金澤健二、高橋茂、駒田充生、加藤直人)

その他

  • 中課題名:有機農業の成立条件の科学的解明と栽培技術の体系化
  • 中課題番号:153b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:金澤健二、高橋茂、駒田充生、加藤直人
  • 発表論文等:簡易測定用試薬と簡易吸光度計を用いた畑土壌分析マニュアル