草生栽培に用いるオオナギナタガヤおよびナギナタガヤの出穂性と発芽特性

要約

樹園地等の草生栽培に用いられるオオナギナタガヤは出穂に長日・低温条件を必要とせず、ナギナタガヤと比較して出穂期が早い。また、その結実種子はナギナタガヤよりも広い温度域で発芽率が高い。

  • キーワード:オオナギナタガヤ、ナギナタガヤ、出穂性、発芽特性、草生栽培
  • 担当:環境保全型農業システム・有機農業体系
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・生産体系研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、樹園地等の有機・環境保全型栽培管理技術として草生栽培が広がっており、先に普及し国内に自生しているナギナタガヤに加えて、北米原産のオオナギナタガヤが利用されている。両種は類似しているが、出穂期や倒伏時期が異なり抑草期間などに差があるため、生産者が導入する際に混乱が生じていることから、両種の生態的特性の差異を明確にする必要性が指摘されている。また、導入・普及にともなう国内の自生・分布拡大が懸念されている。そこで、両種の出穂性および自生に関与する結実種子の発芽性等の差異を明らかにし、オオナギナタガヤの国内における利用と自生・分布拡大の可能性を検討する。

成果の内容・特徴

  • オオナギナタガヤの出穂開始期はつくば市で4月下旬、盛岡市で5月上、中旬であり、ナギナタガヤと比較して約3週間程度出穂期が早い(表1)。
  • オオナギナタガヤでは吸水種子の低温処理がなくても、10,13,16時間のいずれの日長条件でも出穂が認められる。これに対し、ナギナタガヤは強い長日性と、低温要求性を示し、30日以上の低温処理した16時間日長処理区でのみ出穂が認められる(表2)。
  • 10~25°Cでは両種とも90%以上の発芽率で両種間に差はないが、5°Cおよび30°Cではオオナギナタガヤの方がナギナタガヤより発芽率が高く、60%以上となる(図1)。
  • 吸水した種子を-3°Cに3週間さらした場合は、両種ともほとんど死滅せず低温耐性が高い。一方、吸水した種子を35°Cに3週間さらした場合は、オオナギナタガヤの死滅率はナギナタガヤより高くなるが、50%以上の種子が環境休眠状態で生存する(図2)。
  • 以上の結果から、オオナギナタガヤは、発芽率が高く、日長等の影響を受けずに早期に出穂・倒伏する特性を活かして、春期の樹園地管理作業の競合回避や果樹との養水分競合期間短縮を目指す草生栽培に用いることができる。ただし、オオナギナタガヤ種子は低温および高温の不良環境に対する耐性が高く、死滅しにくいことから導入、普及が進むと自生化する可能性もある。

成果の活用面・留意点

  • 草生栽培にナギナタガヤ、オオナギナタガヤの導入を希望する生産者に対して、農業改良普及員や種苗会社の職員が技術指導する際の基礎的なデータとして活用できる。
  • 両種の定着、分布域拡大等については、発芽後の生育における温度の影響も含め、地域ごとの気象データと合わせてさらに検討する必要がある。

具体的データ

表1 オオナギナタガヤとナギナタガヤの戸外における出穂始期
表2 オオナギナタガヤとナギナタガヤの出芽後出穂までの日数に及ぼす日長と吸水種子低温処理の影響
図1 オオナギナタガヤとナギナタガヤ種子の発芽に及ぼす温度条件の影響図2 オオナギナタガヤとナギナタガヤ種子の発芽性に及ぼす低温および高温処理の影響

(中谷敬子)

その他

  • 中課題名:有機農業の成立条件の科学的解明と栽培技術の体系化
  • 中課題番号:153b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:中谷敬子、土師岳、澁谷知子、三浦重典
  • 発表論文等:中谷敬子ら(2011) 雑草研究、56:75-80.