農産物直売所の地域農業への影響評価計測方法

要約

集落別のデータと施設までの距離データを用いた「差の差推定」によって、農産物直売所設置と地域農業の相対的な変化との関係を計測する方法である。本方法を用いることで、農産物直売所の設置が地域農業へ及ぼす影響を定量的に評価できる。

  • キーワード:農産物直売所、差の差推定、空間計量経済学、GIS
  • 担当:加工流通プロセス・食農連携
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現在、農産物直売所は、地元農産物の販売拠点として注目を集めており、多くの地域で地域農業の活性化に寄与しているといわれている。しかし、これらの評価は定性的であり、地域農業への影響を定量的に評価することが求められている。そこで、JAによる農産物直売所開設が主である茨城県を対象に、JAの農産物直売所の立地(距離)と地域農業の関係を、集落レベルの農業データを用いて年次や他の要因を考慮した「差の差(Difference in Differences:DID)推定」による評価方法を策定する。

成果の内容・特徴

  • 農産物直売所の影響評価に用いた指標は「露地野菜作農家率(農産物販売金額第1位部門)」の2000年と2005年の比較であり、推定はDIDの理論による各変数の差分推定(固定効果推定)である。推定モデルは欠落変数バイアスを考慮できる空間エラーモデル(Spatial Error Mode:式1)が理論、推定結果の両面で適合性が高いため、このモデルを採用する。
  • 茨城県の農産物直売所の立地と露地野菜農家率の変化は図1である。推定結果(表1)から、集落属性である専業農家率、65歳未満男子農家率、経営耕地面積、農家1戸当たり経営耕地面積、畑地経営耕地面積率でコントロールした上でなお、1.5km以内の農産物直売所距離ダミーの係数が0.017(有意水準5%)であり、農産物直売所の開設によって露地野菜作農家率が1.7ポイント(8.7%→10.4%)上昇することが確認できる。
  • 距離別の農産物直売所ダミーをみると、農産物直売所距離ダミー(~1.5km)の係数が0.017(有意水準5%)、1.5~3.0kmの係数が0.013(有意水準5%)、3.0~4.5kmの係数が0.009(有意水準5%)、4.5~6.0kmの係数が0.010(有意水準10%)、6.0~7.5kmの係数が0.007であることから、農産物直売所への距離が遠くなるほどインパクトが減衰しており、農産物直売所の設置が露地野菜作農家率を1ポイント以上押し上げる範囲は、直売所から半径6km程度と推定される。
  • 以上の結果に加えて、農産物直売所は露地野菜作農家率の低い地域で開設される傾向にあり(図1)、茨城県においては小規模産地に対して、地元農産物の販売の場を提供することにより、露地野菜生産を後押しし、地域の農家所得の増大に一定の役割を果たしてきたといえる。

成果の活用面・留意点

  • 本方法は、行政やJAが農産物直売所等を開設する(した)場合に、地元にどの程度効果が見込めるか(あったか)を事前(事後)に検討(評価)する際に有効である。
  • 分析にはデータ解析環境R(R Development Core Team)を用いるため、研究者等の関与が必要である。

具体的データ

式1 空間エラーモデルの推定式
図1 農産物直売所の立地と露地野菜農家率
表1 推定結果

(中嶋晋作)

その他

  • 中課題名:消費者ニーズの高度分析手法及び農業と食品産業の連携関係の評価・構築方法の開発
  • 中課題番号:330e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:中嶋晋作
  • 発表論文等:中嶋ら(2011)農業情報研究、23(3):131-138