農業共済の被害資料等の既存情報を用いたイノシシ農業被害発生リスクマップ
要約
農業共済組合が保有するイノシシ水稲被害評価資料等の既存被害情報と電子地図を用いて、広域的なイノシシ農業被害発生リスクマップが作成できる。
- キーワード:鳥獣害、野生動物、イノシシ、GIS、被害予測、リスクマップ
- 担当:基盤的地域資源管理・鳥獣害管理、千葉農総研、横浜国立大学
- 代表連絡先:電話 029-838-8481
- 研究所名:中央農業総合研究センター・情報利用研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
近年、野生動物による農作物被害が深刻化しており、関東北部、東北南部、北陸などの地域で、イノシシの分布および被害が急速に拡大している。県全域等、広域におけるイノシシ農業被害の発生危険度がわかる地図(リスクマップ)があれば、現在被害がないが、今後イノシシ被害が発生する恐れのある地域に、事前に警戒情報を提供するなど、行政による被害対策を支援できる。しかし、リスクマップ作成のための現地調査には、予算、人員面で多大のコストが必要となる。そこで、農業共済組合がイノシシによる損害評価のために水稲被害を実態調査したデータ等の既存資料と、無料または格安で入手可能な電子地図情報を利用して、イノシシ農業被害発生リスクマップを作成するための手法を開発する。
成果の内容・特徴
- 予測に用いるデータ(目的変数)は、千葉県のぼうそう農業共済組合(安房、君津地区)、わかしお農業共済組合(長生、夷隅地区)、けいよう農業共済組合(市原地区)が調査した2007~2008年の調査結果(GPSで取得した被害水田一筆毎の経緯度情報)である。
- イノシシ被害を受けやすい水田の環境特性を分析するため、環境省の植生図、国土交通省の数値地図25000(道路、河川)と数値地図50mメッシュ(標高)、総務省の国勢調査(人口)を用いて、当該水田の森林、河川、道路、集落からの距離、人口密度、地上開度を計測し、説明変数とする。
- 在データのみによる予測手法であるMaxent法を用いて上記1、2の関係を分析し、得られたモデルを千葉県全域に適用することで、イノシシ農業被害発生リスクマップを作成できる(図1)。予測計算に必要なソフトは無償公開している。
- モデルの適合度検証のため、千葉県内から無作為に選んだ水田1,540カ所でイノシシ被害発生状況を調査してモデルを適用すると、判別的中率は72.6%であり、農業共済の資料を用いて精度の高い予測が行えることが確認できる(図2、表1)。また、一般的な予測手法と比較すると、GLM(一般化線形モデル)では的中率が69.9%、GAM(一般化加法モデル)では62.1%であり、Maxent法の予測精度が高い。
- 千葉県以外の都道府県でも、被害発生地点の位置情報(GPSによる経緯度の情報)があれば、同様のイノシシ農業被害発生リスクマップを作成できる。予測に用いる環境情報は日本全国で整備され、無償または格安で利用できる。
普及のための参考情報
具体的データ
(百瀬浩)
その他
- 中課題名:野生鳥獣モニタリングシステム及び住民による鳥獣被害防止技術の確立
- 中課題番号:420d0
- 予算区分:交付金、実用技術(営農管理)
- 研究期間:2007~2011年度
- 研究担当者:百瀬浩、斎藤昌幸(横浜国大)、植松清次(千葉農総研セ)、三平東作(千葉農総研セ)、赤山喜一郎(千葉農総研セ)、大谷徹(千葉農総研セ)
- 発表論文等:1)Saito M, Momose H, Mihira, T and Uematsu S(2012)Int. J. Pest Manage. 58(1): 65-71.
2)Saito M, Momose H, Mihira T(2011)Crop Protect. 30:1048–1054.