農業機械を利用して放射性物質に汚染された表土を除去する技術

要約

トラクタ及びパワーハロー、リアブレード、フロントローダを使用し、放射性物質が降下した後に耕起していない水田や畑の表土を除去する。市販の機械を使用することで作業が可能である。

  • キーワード:放射性物質、除染、表土除去、農業機械、作業方法
  • 担当:IT高度生産システム・農作業ロボット体系
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・作業技術研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

2011年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故により、東日本の広範囲にわたって放射性物質が降下し、農地を含む広い範囲が汚染された。1986年のチュルノブイリ原子力発電所の事故後の調査では、降下した放射性物質による土壌汚染は表層に集中しているとIAEAは報告している。今回の事故においても同様の状況であれば、表層の土壌を除去することで汚染された農地を利用可能な状態に回復させることが期待できる。マスク等の簡易な防護措置で一般の作業者が立ち入ることができる地域で農家等が作業を行うことを想定し、主に市販の農業機械を利用して土壌の放射性物質の量を低減する作業体系を確立する。

成果の内容・特徴

  • 除去作業は、事前調査、砕土、削り取り、集積、排出、袋詰めからなる(図1)。事前調査の結果に基づき、表土の除去深さを決定する。飯舘村の現地試験を行った水田及び畑ほ場の層別の放射性セシウムの分布を表1に示す。表1から、表面から3cmまたは4cmの範囲の土をそれぞれ除去すれば、稲の作付制限対象区域設定の際の判断基準としている放射性セシウム濃度(5,000Bq/kg乾土)を下回ると予測できる。実際のほ場では不陸があるため、余裕を持って削り取る。
  • 実施する主な作業の様子を図2に示す。砕土作業は砕土深さの調整、削り取り作業はブレードで一度に運べる土の量を考慮した作業経路の設定、排出作業では作業を行うほ場と、ほ場外の一次置場までの距離と運搬手段がポイントとなる。また、一通り作業が終了した時点で放射線量の計測を行い、線量が十分低くなっていない箇所は再び砕土から排出までの作業を実施する。全体として十分に線量が下がることを確認してほ場内の作業を終了する。
  • 各作業の作業能率を表2に示す。ほ場内の作業はそれぞれ10aあたり砕土に15~20分、表土の削り取りに40~50分、ほ場内での表土の集積に20~25分、ほ場外への排出には、運搬に2トントラック1台を使用して一次置き場がほ場に近い場合で50~60分要する。バックホーによる袋詰めには1袋あたり15~20分、10aあたり600~800分要し、ほ場内の表土除去作業よりも時間がかかるため、作業に十分な時間をとることのできる場所の確保や雨に対する対策が必要である。
  • 除去前後の土壌中の放射性セシウムの濃度を表3に示す。除去した土の量は1トン詰めのフレキシブルコンテナで、8aの水田で37袋、5aの畑で20袋であり、4cm程度の表土が除去できたと想定される。
  • 各作業は、「東日本大震災で生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」(除染電離則)及び同ガイドラインに則って実施し、作業時のオペレータのほこりによる被曝を防ぐため、キャビン付きトラクタを使用する。

普及のための参考情報

  • 普及対象 稲の作付制限対象区域設定の際の判断基準としている放射性セシウム濃度(5,000Bq/kg乾土)以上に放射性物質に汚染された2011年3月11日以降に耕起していない農地
  • 普及予定地域 福島県を中心とした東日本の計画的避難地域
  • その他 平成23年9月14日農林水産省プレスリリース「農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について」

具体的データ

図1 作業の手順図2 実施した各作業の様子
表1 深さ別の土中の放射性セシウムの分布 (I-131は検出せず)表2 各作業の作業能率

(長坂 善禎)

その他

  • 中課題名:土地利用型大規模農業に向けた農作業ロボット体系の開発
  • 中課題番号:160a0
  • 予算区分:戦略推進費
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:長坂善禎、小林 恭、井関農機株式会社、株式会社ヰセキ東北
  • 発表論文等:農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)作業の手引き(農林水産省)