新たな窒素肥効分析法に基づいた家畜ふん堆肥の施用支援ツール
要約
家畜ふん堆肥の窒素肥効をその遅速を含めて評価可能な分析法とその分析結果に基づき適正な施肥量を試算する施肥設計システム、ならびに堆肥の連用による畑土壌可給態窒素の増加を評価できる簡易土壌診断法により、環境保全的な減化学肥料栽培ができる。
- キーワード:家畜ふん堆肥、窒素肥効、可給態窒素、簡易評価法、養分管理
- 担当:
- 代表連絡先:
- 研究所名:中央農業総合研究センター・資源循環・溶脱低減研究チーム
- 分類:普及成果情報(2008、2009)
背景・ねらい
堆肥利用による土づくりとともに、堆肥中の肥料成分や土壌蓄積養分を勘案した適正な施肥が求められている。しかし、家畜ふん堆肥に含まれる肥料成分量や肥効、ならびに土壌に蓄積される窒素の効果は、堆肥の原料や製造方法、圃場の環境条件等によって著しく異なり、また、従来の培養法による窒素肥効評価には長時間を要するため、肥効を考慮した施用と減肥の実施は困難であった。そこで、家畜ふん堆肥の施用当作の窒素肥効を迅速に評価する手法の開発とマニュアル化、評価結果に基づく施肥設計システムの構築、および畑土壌可給態窒素の変化を簡易・迅速に判定する手法を開発し、環境保全に配慮した堆肥利用と施肥の適正化を推進する。
成果の内容・特徴
- 家畜ふん堆肥の施用当作期間の窒素肥効を速効性(施用直後~4週間)と緩効性(施用4週間後~12週間後)に区別して評価できる。高価な機器を使用せずに2日程度で分析でき、また操作手順の字幕入り動画を含む詳細なマニュアルにより、人員・予算に制限がある普及センター等での利用が可能である。導入コスト約15万円、分析費用は試料1点当たり1千円程度。
- サーバ上で稼働する施肥設計システム(名称:堆肥カルテシステム)を構築、体験版として公開。利用者は家畜ふん堆肥の肥効評価に基づいた適正な施肥設計をWeb ブラウザ上で体験できる。導入経費は150~200万円程度(ハードウェアを除く)。
- 毒劇物を使わず、一般家庭で入手可能な器具によって、2日以内で実施可能な畑土壌可給態窒素の簡易・迅速判定法である。黒ボク土を含む広範な種類の畑土壌に適用できる。初期投資2万円以下、分析費用は試料1点当たり約150円と安価。
普及のための参考情報
- 普及対象
行政機関(堆肥カルテシステム)、試験研究機関(堆肥分析法)、普及センター等技術指導機関や生産者(畑土壌可給態窒素簡易判定法)
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等
全国。特に畜産振興地域。
- その他
三重県では、すでに堆肥カルテシステムの実用的システムを構築し、生産現場において堆肥の肥効を考慮した基肥節減の技術指導に取り組んでいる。岐阜県では県内生産堆肥の本法による評価結果をHPで公開。畑土壌可給態窒素判定法については、新潟県が県内土壌への適合性を確認し、広報活動を開始。長野県でも普及センターで本法による土壌可給態窒素の評価結果に基づく野菜の窒素減肥栽培を検討中。その他、関東、東海、九州の各地域で、研究機関、技術普及組織、JA等が堆肥の窒素肥効評価法、あるいは可給態窒素評価法の適合性を検討中。堆肥分析法のWeb公開マニュアルへのアクセス者数5万人超、畑土壌可給態窒素判定法マニュアル1,500冊配布、TV放映2回、分析法講習会12回。
具体的データ




(加藤直人)
その他
- 中課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心にした農業生産活動規範の推進のための土壌管理及び窒素負荷予測技術の開発
- 中課題番号:214q.1
- 予算区分:実用技術、委託プロ(省資源型農業)
- 研究期間:2006~2009年度
- 研究担当者:加藤直人、石岡厳、上薗一郎、棚橋寿彦(岐阜県農技セ)、小柳渉(新潟県農総研)、村上圭一(三重県農業研究所)、柴田正貴(畜産環境整備機構)
- 発表論文等:1)上薗ら(2010)土肥誌、81(1):39-43
2)上薗ら(2010)土肥誌、81(3):252-255
3)石岡ら「家畜ふん堆肥の肥料成分・窒素肥効評価マニュアル」2010年3月
4)上薗ら「畑土壌可給態窒素の簡易・迅速評価マニュアル」2010年9月