α-アミラーゼの抑制によって登熟期高温で発生する水稲の白未熟粒を低減できる

要約

登熟期の高温で発生し、米の品質を損なう白未熟粒は、デンプン分解酵素α-アミラーゼが高温条件下で活性化されることで生じる。α-アミラーゼを抑制することで、高温での白未熟粒の発生を低減できる。

  • キーワード:イネ、高温登熟、白未熟粒、玄米外観品質、α-アミラーゼ
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・作物開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年の温暖化によって、我が国の水稲生産において高温登熟障害が問題となっている。登熟期に高温に遭遇すると、胚乳部分が白く濁ってみえる白未熟粒が多く発生し、検査等級が低下するため、その解決が求められている。
通常、イネ種子の胚乳は、デンプンの粒が密に充填されており、そのため通常は半透明の外観を示す。一方、高温によって発生した白未熟粒においては、デンプンの充填が不十分となり、隙間で光が乱反射するため、白濁部分が形成される。高温処理したイネ未熟種子の遺伝子の働きを解析したところ、高温により、デンプン合成能力が低下することに加えて、合成したデンプンが分解していることが示唆された。そこで、デンプンの分解に着目し、それを抑えることで、白未熟粒の発生を低減できるか検討する。

成果の内容・特徴

  • 登熟期の高温によって、未熟種子において、デンプンを分解する酵素であるα-アミラーゼの遺伝子ファミリーのうち、Amy1AAmy1CAmy3AAmy3D、およびAmy3Eの発現が増加し、それに伴って酵素活性も増加する(図1A、B)。
  • 登熟期の高温によって、α-アミラーゼの発現を抑制する植物ホルモンであるアブシジン酸の未熟種子中の含有量が低下する(図1C)。
  • RNA干渉法等で登熟期のα-アミラーゼ遺伝子の発現を抑制すると、Amy1AAmy1CAmy3AAmy3B、およびAmy3Dの発現が強く低減され、白未熟粒の発生が減少し、整粒率が増加する(図2)。
  • 以上より、高温に遭遇した登熟途中の種子において、α-アミラーゼの活性が上昇し、合成されたデンプンの一部が分解されるため、デンプンの蓄積が不十分となり、白未熟粒となることが示された。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、水稲品種「日本晴」を用いた結果である。
  • 本成果による知見と手法は、白未熟粒発生のメカニズム解明に活用できる。
  • α-アミラーゼ遺伝子が働かなくなった変異イネ等を探索し利用することによって、白未熟粒が発生しにくい高温登熟耐性品種を開発できる可能性がある。

具体的データ

 図1~2

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題番号:112b0
  • 予算区分:委託プロ(新農業展開ゲノム)
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:山川博幹、羽方誠、三ツ井敏明(新潟大農)、榊原均(理研PSC)
  • 発表論文等:
    1) Hakata M. et al. (2012) Plant Biotech. J. 10 (9): 1110-1117
    2) 三ツ井ら、特願2012-080709