農業被害を引き起こすイノシシの分布拡大シミュレーション

要約

イノシシ捕獲地点の拡大傾向を分析して、県などの地域で個体群の分布拡大シミュレーションを行うことができる。千葉県内では、今後イノシシの分布が拡大し、2020~2025年には県北部に到達して農業被害を引き起こすと予測される。

  • キーワード:野生動物、鳥獣被害、イノシシ、分布拡大、シミュレーション
  • 担当:基盤的地域資源管理・鳥獣害管理、横浜国立大学、千葉農林総研
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・情報利用研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年、野生動物による農作物被害が深刻化しており、関東北部、東北南部、北陸などの地域で、イノシシの分布および被害が急速に拡大している。有害獣の分布拡大状況を事前予測できれば、拡大が予想される地域での早期の農業被害防止対策や、拡大そのものを防止するための対策検討などが可能になると期待される。そこで、現在の分布状況をもとにイノシシの分布拡大予測モデルを構築し、それを用いて分布拡大シミュレーションを行うことでイノシシの将来における分布拡大を予測する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 2002~2007年度に千葉県内で有害鳥獣駆除により捕獲されたイノシシの捕獲場所の分布情報から、県内を3km四方のメッシュに分割した場合の在―不在データを作り、これを分布拡大予測モデル構築のための元データとする(図1)
  • 構築する分布拡大予測モデルは、単位時間あたりに、イノシシの分布があるメッシュに拡大する確率を、既存の分布メッシュからの距離(移動率)および移動先メッシュの環境要因(生息適合度)の積によって推定するものであり、パラメータの推定には最尤法を使用する(表1)。
  • 構築したモデルを2010年の分布に当てはめた場合の的中率は約93%である(表2)。
  • モデルを用いて、2012~2030年までの千葉県内のイノシシ分布拡大シミュレーションを行うと、現状のまま分布拡大阻止のための対策が実施されない場合、イノシシの分布は2020年頃までに県北部地域にまで到達すると予測される(図2上のシナリオ1)。
  • 現在県北部に存在する少規模の隔離個体群を除去した場合は、分布の拡大が5年程遅れ、県北部に分布が拡大するのは2025年頃になると予測される(図2下のシナリオ2)。
  • イノシシの千葉県内における分布拡大の平均速度は、約2.2km/年と推定される。

普及のための参考情報

  • 普及対象:県、市町村等の鳥獣害対策担当者、農業共済組合の鳥獣被害担当者など。
  • 普及予定地域、普及予定面積、普及台数等:関東北部、東北南部、北陸など、今後イノシシ被害の拡大のおそれがある県等の地域。
  • その他:同様の予測を他の県等で行う場合、複数年における捕獲地点など、分布拡大を示す資料が必要となる。都道府県等が同様のシミュレーションを行いたい場合、農研機構(中央農研:鳥獣害管理)が分析・計算に協力し、分布拡大予測図を作成できる。

具体的データ

図1~2、表1~2

その他

  • 中課題名:野生鳥獣モニタリングシステム及び住民による鳥獣被害防止技術の確立
  • 中課題番号:420d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011?2012年度
  • 研究担当者:百瀬浩、斎藤昌幸(東京大)、小池文人(横浜国大)、三平東作(千葉農林総研)、植松清次(千葉農林総研)、大谷徹(千葉農林総研)、赤山喜一郎(千葉農林総研)
  • 発表論文等:1) 斎藤、百瀬ら(2012)Wildlife Biology、18: 383-392.