水稲作におけるリン酸減肥の基本指針

要約

地力増進基本指針における改善目標の下限値を基準とし、安全を見越した幅を持たせて、有効態リン酸が10~15mg/100gの場合には各地の土壌条件に応じて標準施肥量~その半量の施肥を、15mg/100gより大きい場合には半量の施肥を推奨する。

  • キーワード:リン酸減肥、水稲作、有効態リン酸、地力増進基本指針、改善目標
  • 担当:新世代水田輪作・温暖平坦地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・土壌肥料研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

肥料原料の輸入価格が2008年に急騰し、農業生産における肥料費の抑制が喫緊の課題になるとともに、原料資源の有限性に対する危機意識から資源の有効利用が以前にも増して大きな課題となった。一方、多くの水田土壌では、長年努力を続けてきた土壌改良の結果、地力増進基本指針の改善目標の下限値(トルオーグ法による有効態リン酸が10mg/100g乾土)を超えてリン酸が蓄積している状況が見られるようになっている。高まる肥料節減の要望に対し、減肥が十分可能と考えられてきたが、広く普及できる明確な減肥指針がなかった。そこで、全国各地に広がる主要な土壌におけるリン酸施肥反応に基づき、水稲作のリン酸を減肥する指針を策定する。

成果の内容・特徴

  • 有効態リン酸が10mg/100g前後の土壌では、リン酸を各県が定める標準施肥量の半量程度まで減肥した栽培を4年間継続しても、分げつ期の茎葉リン酸濃度や穂数などの生育量と収量が確保できる(収量のみ図1に示す)。
  • リン酸無施肥を継続すると、土壌中の有効態リン酸は減少する。減少経過は数式モデルで解析でき、その減少は、粗粒質な低地土で早い(図2、表1)。
  • 改善目標の下限値を維持するために必要なリン酸施肥量は、数式モデルから得られる有効態リン酸の下限値からの年間減少量を補給できる施肥量で、野外培養実験で求めた施肥リン酸が土壌の有効態リン酸に変化する割合に基づいて表2の通り算出される。
  • 改善目標の下限値を下回らないためには、表2の施肥量が必要で、概ね、標準施肥量~その半量程度であり、非黒ボク土では、リン酸吸収係数が大きい土壌ほど大きい。
  • 有効態リン酸が下限値より大きく蓄積している土壌では、リン酸施肥量を表2の値より減らすことが可能である。半量程度の施肥により、有効態リン酸の減少はかなり緩和できるので15mg/100gより大きい場合には半量施肥を推奨する。
  • リン酸半量施肥の場合には、数式モデルから算出されるリン酸無施肥栽培で下限値に達するまでの期間(例えば15mg/100gの時点からは、中粗粒灰色低地土で2年、その他土壌では5~7年)を目安に土壌診断を実施して施肥量を見直すことが無難である。
  • リン酸肥料を半量に減肥すると、肥料費は10~20%削減される。

普及のための参考情報

  • 普及対象:都府県農政部等で水稲に関する施肥方針を策定している機関および生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本州以南の水稲作地帯
  • その他:本指針は、稲わらを全量還元する圃場に適用する。また、各地域において、品種、気象条件なども考慮し、修正を加えて活用する。なお、造成・土壌改良後の経過年数が短い黒ボク土では、有効態リン酸の減少が大きいために土壌診断に基づいたリン酸質土壌改良資材の投入が必要である。

具体的データ

図1

図2,表1~2

その他

  • 中課題名:地下水位制御システムを活用した温暖平坦地向け水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b3
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2009~2013年度
  • 研究担当者:新良力也、塩野宏之(山形農総セ)、齋藤寛(山形農総セ)、熊谷勝巳(山形農総セ)、金井政人(新潟農総研)、南雲芳文(新潟農総研)、土田 徹(新潟農総研)、池羽正晴(茨城農総セ)、宮本寛(茨城農総セ)、橘恵子(茨城農総セ)、吉澤比英子(栃木農試)、出口美里(栃木農試)、宮崎成生(栃木農試)、林元樹(愛知農総試)、東野敦(愛知農総試)、牧田尚之(愛知農総試)、赤井直彦(岡山農林水総セ)、有簾隆男(宮 崎総農試)、上田重英(宮崎総農試)、古江広治(鹿児島農開総セ)、白尾吏(鹿児島農開総セ)、餅田利之(鹿児島農開総セ)、伊藤豊彰(東北大農)
  • 発表論文等:
    1)新良ら(2012)土肥誌、83:210-215
    2)新良ら(2014)「水稲作のリン酸・カリウムの減肥に向けて」土壌診断、施肥法改善、土壌養分利用によるリン酸等の施肥量削減にむけた技術導入の手引き、2-11