フィールドサーバを用いた鳥獣害監視システム

要約

熱画像カメラを回転雲台に搭載したフィールドサーバで、ネット回線や無線通信を介し、農地、牧草地など広い区域の遠隔即時監視ができる。農家や被害対策を支援する行政が野生鳥獣による接近・進入、分布拡大等を省力的に即時把握できる。

  • キーワード:鳥獣害、IT、省力化、農地再生、獣畜接触回避
  • 担当:基盤的地域資源管理・鳥獣害管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・情報利用研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

各地で鳥獣被害が深刻化しており、有害鳥獣の捕獲強化や鳥獣被害の低減、対策の省力化などが求められている。これらの課題を解決するには、野生鳥獣の農地接近や分布域拡大などの情報を無人で効率的良く収集できるITシステムの活用が有効である。そこで、フィールドサーバを用いて監視カメラを制御し、農地等への野生鳥獣の接近、進入を無人で即時に検知し、映像で農地管理者等に通報できる情報提供システムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 農地、牧草地、畜舎等へ接近・進入する野生動物の種類や数、進入箇所、進入様態、被害の発生を把握し、その映像をインターネット経由で即時に農地管理者に通報するシステムである(図1)。
  • 本システムを以下の3条件で運用実証している。
    1)福島県の震災復興対策試験農地に進入するイノシシ等の監視
    2)群馬県の牧草地に進入し食害するシカ等の監視
    3)牧場の畜舎に侵入し飼料を盗食、病気媒介の恐れがあるタヌキ等の監視
  • 熱画像カメラ(日本アビオニクス(株)製)を太陽光パネル電源で駆動でき、今まで電力と投光量不足で不可能だった100m以遠の撮影ができる(図2)。
  • 上記1)2)では回転雲台にカメラを搭載し、画角120度の広範囲監視を実現した。
  • 3)では、熱画像によって牛に接近する皮膚病のタヌキを鋭敏に検知できる(表1)。
  • Wi-Fiによる無線通信でモバイル機器でも映像を取得でき、屋外で監視できる。
  • 設備費は受像用のパソコンを除き86万円(熱画像型)から43万円(可視光カメラ型)で、無人監視装置として運用することで夜間に現地へ出向く労力を無くせる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:1)福島県の震災復興地域等、営農再開時に激甚被害が危惧される市町村、2)獣害が常態化し牧草被害が甚大な中山間地の牧場、3)畜舎の飼料盗食被害が顕著で獣畜の接触による病原体の媒介も危惧される畜舎、4)鳥獣害対策の立案に野生動物の生息や進出の状況把握が必要な行政機関等
  • 普及予定地域等:1)福島県における農地再生予定区域、2)牧草地でシカ等の食害防止対策を予定する地域、3)畜舎で飼料盗食が発生する等、獣畜の接触を回避すべき牧場、4)全国の野生鳥獣(含む外来種)進出地域
  • その他:上記6の機能で監視しながら追い払い対策を行うことができる。システムの価格面および保守作業の必要性から、普及においては運用管理会社を通じたレンタルを主とする。また、市町村の導入には国の補助(鳥獣被害防止総合対策交付金)が適用可能である。

具体的データ

図1~2,表

その他

  • 中課題名:野生鳥獣モニタリングシステム及び住民による鳥獣被害防止技術の確立
  • 中課題整理番号:420d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:竹内正彦、深津時広、世一秀雄、塚田英晴、藤本竜輔、山口恭弘、百瀬浩
  • 発表論文等:深津ら(2012) Comput. Electron. Agr. 80:8-16