イタリア水稲生産における特徴と低生産費化へのポイント

要約

イタリアの稲作では平均的な43ha規模で費用合計が65円/kgである。大規模化以外に種子、肥料、農機具が日本国内より低価格なこと、高密度の直播栽培と管理法の省力化が低コスト化の要因である。また、現地では高密度播種条件でも倒伏を生じていない。

  • キーワード:イタリア、直播稲作、生産費、初期管理、耐倒伏性
  • 担当:新世代水田輪作・水稲超多収栽培
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内では米価下落が進む中、根本的な生産費用低下の必要性が迫られている。そこで、国内都府県にも出現しつつある50haが平均的規模であり、近年研究が進展しているイタリア稲作に関する作業実態調査等を行い、日本とイタリアの稲作技術や費用構造を比較することにより、国内生産における生産費低下に貢献可能な技術およびコストの要因を提示する。

成果の内容・特徴

  • 播種は種子の安さを背景として播種量が20kg/10a(約600粒/m2)の高密度播種が行われており(表1右上)、ブロードキャスタを装着したトラクタによる無代かき表面散播が多く、補助労働を加えても播種の労働時間が0.16時間(10分)/10aである(図1)。
  • 湛水直播後は、約1週間後から落水管理を行い、第3葉の葉身が4-5cmに達する時期(およそ播種2週間後)に入水する。播種後1ヶ月ヒエ対策を中心とした除草剤散布、追肥を行う(図1)。目標とする苗立ち密度は、およそ300本/m2と非常に高いが、稈長は約60~65cmと短く(図2)、表面散播でも倒伏を生じにくい。なお、鳥害や降雨が少ないことも苗立ちの安定に寄与している。
  • 窒素施肥量は17kg/10aとやや多いが、単価の低さから、肥料費は国内の約半分である。施肥は播種と同じ機械を使用でき、散布1回あたり労働時間は0.09時間(5分)/10aである。
  • 農機具は大型化しているが取得価額はあまり高くない。長期使用により償却期間が長いことから、国内の15ha以上類型の1/3以下となる(表1)。
  • 作業実態調査から生産にかかわる労働時間が合計4時間/10a以下と、省力化されている(図1右側)。栽培法の違いに加え、平均2haの圃場一筆の面積を背景とした大幅な省力化に基づいて労働費が低下している。
  • 以上の栽培上等の特徴から、事例の43ha規模における費用合計は65円/kgであり、国内平均に比べ1/4倍近く低コスト化されている。スケールメリットの差は小さいと想定される国内の15ha以上の経営と比較しても、半分以下である(表1)。
  • 事例の散播直播の作業時間は国内15ha以上類型の田植作業時間1.9時間/10aの1割以下であり、他の作業よりも国内に比べ大幅に省力化されている。また、施肥機との汎用利用、無代かき化、育苗省略の効果もあり、イタリアの技術活用による国内稲作生産費低下へのポイントとなる。

成果の活用面・留意点

  • 我が国の水稲生産の大規模化に向けた技術開発や大規模生産に関与する、研究、行政、普及、生産関係者に対して、国内稲作の低コスト化への技術的課題を提示する。
  • 1ユーロ=130円として計算する。日本の生産費は生産費調査平成23年のデータを使用する。イタリアのデータは平成23、24年のデータを用いる。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:水稲多用途利用のための低投入超多収栽培法の開発
  • 中課題整理番号:111a1
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2011~2013 年度
  • 研究担当者:笹原和哉、吉永悟志
  • 発表論文等:笹原、吉永(2013)二〇一三年度日本農業経済学会論文集:289-296