温度依存反応式に基づいた北陸地方における湛水直播栽培の播種早限の推定

要約

低温条件では最高気温が高い場合にイネの出芽が早まる。このことから、温度依存反応式に基づいて、最高・最低気温の平年値から、北陸における湛水直播栽培の播種早限を推定すると、日平均気温から推定した従来の播種早限と異なる。内陸部では高標高地点を除いて播種早限は早まり、沿岸部周辺では播種早限は遅れる傾向となる。

  • キーワード:イネ、温度依存反応式、湛水直播、播種早限、北陸地方
  • 担当:新世代水田輪作・重粘地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

寒冷地における湛水直播栽培では、気温が低い条件で播種した場合、出芽・苗立ちは遅れ、最終的な出芽・苗立ち率が低下する結果、生育量不足によって低収となることがある。これまで、寒冷地における湛水直播栽培の出芽・苗立ち確保の目安となる播種早限は、平均気温から推定されていたが、地域の気象条件に対応して、よりきめ細かい播種早限を提示して、早期に播種した場合でも安定した出芽・苗立ちの確保を図る。

成果の内容・特徴

  • 種子コーティングが無い場合、イネの出芽に対する最高気温と最低気温の温度差の影響は低温条件で顕著となり、最高気温が高い場合に出芽がより早まる。また、出芽時における出芽率の実測値とアレニウス式(温度依存反応式)に従う原の式による推定値はほぼ同様の推移を示す(図1上段)。また、種子コーティングした場合も同様の傾向を示す(図1下段)。
  • 北陸地方のアメダス気象データ4月から6月上旬の日平均気温、日最高気温、日最低気温の平年値から、播種後20日間の平均気温が15°Cとなる最初の日 (平均気温早限)、アレニウス式に従う原の式 (原 2010) を利用して連続した20日間の変換日数を求め、15±5°C条件・20日間の変換日数の値を超えた最初の日 (最高最低気温早限) を計算してそれぞれ早限日とする。1日分の25°C変換日数は、最高気温 (TH)、最低気温 (TL)、気体定数 (R) の値を8.31 J K-1 mol-1、活性化エネルギー (E) の値を80 kJ mol-1として以下の式で求める。1日の変換日数=EXP((1/(273.15+25)-1/(273.15+TH))×E/R)/2+EXP((1/(273.15+25)-1/(273.15+TL))×E/R)/2
  • 北陸地方の内陸部では、高標高地である関山と上市を除いて最高最低気温早限は平均気温早限に比べて同日または早まる傾向を示す。また沿岸部では、最高最低気温早限は平均気温早限に比べて遅れる傾向を示すが、佐渡島の東側に位置する下越沿岸部周辺、富山湾の奥に位置する伏木と富山および若狭湾の奥に位置する小浜では傾向が異なり、最高最低気温早限は平均気温早限に比べてほぼ同日か早まる傾向を示す(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、「コシヒカリ」を用いたチャンバー試験の結果を基に推定したものである。
  • 北陸地方における湛水直播水稲栽培の播種適期の目安として利用できるが、アメダス気象データの平年値から推定したものであり、播種時期に突発的な低温が予想される場合は播種時期を遅らせた方が良い。
  • 本成果は、実際の湛水直播栽培における種子条件、水温、出芽・苗立ち結果とデータを整合させることにより推定精度がより高まると考えられる。
  • アレニウス式に従う原の式は、原(2010 日作紀79(3):342-350)を参照。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:多雪重粘土地帯における播種技術及び栽培管理技術の高度化による水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:古畑昌巳、原嘉隆
  • 発表論文等:
    1)古畑・原(2013)日作紀82(4):402-406
    2)古畑・原(2014)日作紀83(3):203-209
    3)古畑・原(2014)日作紀83(3):210-215