パン用小麦「ユメシホウ」のタンパク質含有率適正化のための施肥法

要約

「ユメシホウ」の栽培において、開花期に7kg/10a以上の地上部窒素含有量を確保し、開花期に4kg/10aの窒素追肥を行えば、子実タンパクを基準値範囲に収めることができる。茎立期4+開花期4kg/10aを標準とした窒素追肥は施肥効率と収益性が高い。

  • キーワード:ユメシホウ、パン用小麦、施肥法、子実タンパク質含有率、タンパク適正化
  • 担当:新世代水田輪作・温暖平坦地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・生産体系研究領域、作業技術研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

小麦「ユメシホウ」は硬質小麦で製パン適性があり、「農林61号」より早生で、倒伏に強いことから、多肥栽培への適応性がある。また、食料自給率の向上と水田の土地利用率向上の観点から、水田作における小麦栽培が推奨され、さらには、地元産小麦によるパンづくりが活性化していることもあり、パン用小麦の需要が高まっている。そこで、「ユメシホウ」の子実収量を高めるとともに、小麦の用途別評価項目のなかの子実タンパク質含有率(子実タンパク)をパンおよび中華めん用基準値(11.5~14%)に収めて高品質生産を行うための施肥法を確立する。

成果の内容・特徴

  • 開花期前の窒素追肥は主に子実収量の向上に、開花期以降の窒素追肥は主に子実タンパクの向上に向けられる(図1)。「ユメシホウ」の子実タンパクの適正化には開花期頃の追肥が適する。
  • 開花期の窒素追肥が子実タンパクを高める効果は、開花期植物体の地上部窒素含有量が少ないときには、開花期の窒素追肥によって子実タンパクは大きく高まるが、窒素含有量が多いときにはあまり効果がない。窒素含有量が7~17kg/10a(g/m2)のとき、追肥窒素量を4kg/10aにすると、ほぼ安定して成熟期の子実タンパクを基準値範囲に収めることができる。開花期の窒素含有量が10kg/10a以下のときには、追肥を行わないと子実タンパクが基準値以下になりやすいことから、追肥が必須である(図2)。
  • 追肥窒素量を茎立期に2、4kg/10aと増やすにつれて生育が旺盛になり、4kg/10aの追肥で開花期に7kg/10a以上の地上部窒素含有量を確保できる。さらに、開花期に追肥窒素量を4、8kg/10aと増やすにつれて子実タンパクが高くなるが、8kg/10aの追肥では子実タンパクが基準値以上に高くなりやすい。茎立期4+開花期4kg/10aの窒素追肥により収量が高く、子実タンパクもおおむね基準値範囲内に入る(図3)。
  • 追肥なし区に対する追肥の施肥効率はおおむね50%以上で、茎立期4+開花期4kg/10aの窒素追肥は比較的施肥効率が高い。また、追肥なし区を基準に、追肥による収量増加額と、追肥のために投入する資材費や追肥の労働費を差し引いた収支をみると、茎立期4+開花期4kg/10aの窒素追肥による施肥法は収益性が高い(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本品種は関東以西の温暖な平坦地が適する。試験は関東地域で、暗渠や表面排水明渠など排水対策のある水田転換畑で行った。他の地域や地力の異なる畑圃場では別途検討が必要である。パン用小麦「ゆめかおり」においても同様の効果を確認している。
  • 技術指導や問い合わせは中央農業総合研究センターが対応し、栽培方法や施肥に関する栽培マニュアルを提供する。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:地下水位制御システムを活用した温暖平坦地向け水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b3
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2008~2013年度
  • 研究担当者:島崎由美、大下泰生、渡邊好昭、小島誠、松山宏美
  • 発表論文等:島崎ら(2014)日本作物学会紀事、83(1):25-31