温湯処理による水稲種子の発芽促進効果

要約

水稲種子を60°Cの温湯中に10分間浸す処理は、消毒効果に加え一部の品種を除いて発芽を早める効果を持つ。乾熱処理により発芽率が低下する品種「べこあおば」においては、温湯処理が有効な発芽促進法である。

  • キーワード:稲、温湯処理、種子、発芽促進
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・作物開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲種子を60°Cの温湯中に10分間浸漬する温湯処理は,種子の病害防除のための消毒方法として開発され、化学合成農薬を用いる必要がなく減農薬栽培に対応できるため、近年利用が拡大している。種子へのこの温湯処理は、消毒作用のみでなく発芽促進効果を持つ可能性があるが、その試験事例は少ない。本研究では、日本型稲品種の「コシヒカリ」、「萌えみのり」、「べこあおば」、さらにインド型品種で休眠の強い「タカナリ」、「北陸193号」を用いて温湯処理が水稲種子の発芽に及ぼす効果について調査した。また、種子の発芽促進方法として一般に用いられる50°C7日間の乾熱処理との比較を行った。

成果の内容・特徴

  • 「萌えみのり」、「べこあおば」、「タカナリ」、「北陸193号」において、温湯処理を行った種子は無処理種子に比べ発芽が早まる(図1)。「コシヒカリ」においては無処理種子と温湯処理を行った種子で発芽率に変化はない。
  • 休眠の強い「タカナリ」、「北陸193号」において、温湯処理は最終的な発芽率を上昇させ、休眠打破効果を持つ(図1)。しかし乾熱処理に比較すると、その休眠打破効果は弱い。
  • 「べこあおば」は、乾熱処理では無処理に比べ発芽率が低下する(図1)。しかしこの品種は、温湯処理では発芽率の低下は起こらず、発芽が早まる。このように、乾熱処理により発芽阻害が起こる品種では、温湯処理が有効な発芽促進手段である。

成果の活用面・留意点

  • 試験に用いた種子は、9月に採種を行った後、室内で常温保存し、翌年3月に試験に用いた。
  • 発芽試験は、温湯処理区は60°Cの温湯に10分間浸漬後冷水につけ、ただちに100粒をシャーレ内に播種し、30°C下で調査を行った。無処理区、乾熱処理区は、30°Cの温湯中に10分間浸漬後同様に播種し、調査を行った。
  • 一部の糯品種(早坂ら 2001. 日植病報 67: 26-32)、飼料稲品種(中島・平野2002. 九病虫研会報 48: 1-4)は温湯処理により発芽阻害が起こるため、留意する必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題整理番号:112b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010年~2012年度
  • 研究担当者:福田あかり、白土宏之、山口弘道、大平陽一、寺尾富夫
  • 発表論文等:福田ら(2013)北陸作物学会報、48: 8-10