大麦の高リジン変異体は種子のγ-アミノ酪酸および遊離アミノ酸の含量が高い

要約

大麦の高リジン変異体は種子の遊離アミノ酸含量に加えてγ-アミノ酪酸の含量およびその胚乳における分布割合が高い。なかでもγ-アミノ酪酸含量はlys5h 変異体、遊離アミノ酸含量はlys3a 変異体が高い。

  • キーワード:大麦、高リジン変異、γ-アミノ酪酸、ギャバ、GABA、アミノ酸
  • 担当:大麦品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・作物開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

γ-アミノ酪酸(GABA)は抑制系の神経伝達物質として機能するアミノ酸である。その機能の一つに血圧低下作用があり、GABAを含む食品が特定保健用食品として許可されている。また、バリン、イソロイシン、ロイシンなどの分岐鎖アミノ酸は筋肉のエネルギー代謝に深く関わっており、運動中の筋肉消耗の低減に経口摂取で有効性が示唆されている。GABAやアミノ酸を米や小麦から摂取する場合、嗜好性に影響を及ぼす糠部の同時摂取が必要になる。一般的に大麦は米や小麦よりもGABA含量が高いことが知られている。しかし、大麦の高リジン突然変異体については情報が不足している。そこで、大麦高リジン変異体のGABA含量や遊離アミノ酸含量の変異や分布、組成等の特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 高リジン遺伝子変異をもつ大麦種子全粒粉は、γ-アミノ酪酸および遊離アミノ酸(α-アミノ酸)含量が高い(表1)。なかでもGABA含量はlys5h 変異体、遊離アミノ酸含量はlys3a 変異体が高い。
  • 高リジン遺伝子変異をもつ大麦種子の遊離アミノ酸の組成は野生型と異なる。高リジン遺伝子変異体は、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン)、グルタミン、セリン、およびスレオニンなどの割合が高く、逆にアスパラギンおよびトリプトファンの割合が低い(表2)。また、lys3a 変異体はプロリンが多い特徴を持つ。
  • GABA含量及び種子内分布について、lys1 あるいはlys3a をもつ準同質遺伝子系統を原品種と比較すると、糠粉および60%搗精粒粉砕粉(60%粉)のGABA含量は、全粒粉と同じく高リジン変異体が高い(図1(A)、(B))。また、可食部の60%粉のGABA含量はlys1 系統がもっとも高く、100g当たり25mg程度を含有する。
  • 全粒粉のGABA含量のうち可食部の60%粉に由来するGABAの割合は、野生型と比べてlys1 変異体が高い(図1(C))。

成果の活用面・留意点

  • アミノ酸濃度の分析には高速アミノ酸分析計を用いた。
  • 大麦種子を食品素材として利用する際の知見となる。
  • 可食部のGABA含量が高い特徴が明らかとなったlys1 遺伝子を持つ系統は育種経験的に粒重がやや小さいこと、硝子率が高いことが知られており、育種利用にあたってはとくに千粒重に配慮した選抜が重要である。

具体的データ

図1,表1~2

その他

  • 中課題名:需要拡大に向けた用途別高品質・安定多収大麦品種の育成
  • 中課題整理番号:112e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:野方洋一、長嶺敬、斎藤武、阿部大吾、柳沢貴司
  • 発表論文等:Nogata Y. et al. (2012) Food Sci. Technol. Res. 18: 263-269