大規模家族経営における農業経営者の高齢化と農業後継者の確保状況
要約
大規模家族経営の農業経営者は団塊の世代が多く、39%の家族経営で同居農業後継者が確保されていない。農業継承が懸念される同居農業後継者がいない大規模家族経営の経営耕地面積は2010年の3万haから、2020年には17万haに増加する。
- キーワード:農林業センサス、大規模家族経営、農業経営者、高齢化、世代交代
- 担当:経営管理システム・開発技術評価
- 代表連絡先:電話 029-838-8481
- 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
大規模家族経営が各地で形成される一方で、農業経営者の高齢化が進んでいる。しかし、大規模家族経営における農業経営者の状況、さらに農業後継者への世代交代の状況に関しては、これまで定量的に明らかにされていない。そこで農産物販売金額1500万円以上の大規模家族経営に焦点を当て、農林業センサスの個票組替集計、及び、2005年と2010年のパネルデータ分析から、大規模家族経営の農業経営者の特徴、及び農業後継者の確保状況を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 農産物販売金額1500万円以上の家族経営(2000年は販売農家)を対象として、2000~2010年の年齢別の農業経営者数、及び同居農業後継者数(実数値)をみると、農業経営者では1947年~1950年生まれの団塊の世代が多くを占める(図1)。1947年~1950年生まれの農業経営者は全体の約20%(1.5万経営体)を占めており、2000年以降、割合にほぼ変化がなく、高齢化している。2010年には、これらの世代が59~62歳になり、今後、世代交代時期を迎える経営が急増することが見込まれるが、同居農業後継者数は増えていない。
- 農業経営者年齢60歳以上の家族経営(1.8万経営体)について、2005年から2010年にかけての世代交代の状況をみると、2010年時点で世代交代し、販売金額1500万円以上となった経営体は4,116経営(23%)に過ぎず、39%は世代交代せずに経営を継続し、38%は販売金額1500万円未満の規模へと減少している(図2)。特に、縮小経営では同居農業後継者確保率が、他の類型と比べて低い傾向にある。
- 団塊の世代の同居農業後継者確保率は、2010年で61%であり、39%の経営で同居農業後継者が確保されていない(表1)。次世代への農業継承が懸念される農業経営者年齢65歳以上で同居農業後継者がいない家族経営の経営耕地面積は、2010年時点では3万haであるが、2010年の同居農業後継者確保率が今後も続くと仮定すると、2020年には17万haにまで拡大する(図3)。そのため、現状の経営耕地面積を維持するためには、農業後継者の確保対策、円滑な経営継承対策とともに、既存経営のさらなる規模拡大が必要になる。
成果の活用面・留意点
- 農産物販売金額1500万円については、夫婦二人の農業所得を600万円(農業所得率40%)とした場合、必要とされる農産物販売金額の水準として設定している。
- 世代交代については、2005年と2010年の5年間で、農業経営者年齢が10歳以上減少したものを「世代交代」した経営としている。
- 大規模家族経営の農業後継者の確保対策、経営継承対策の重要性を示す基礎資料として行政などで活用できる。
具体的データ
その他
- 中課題名:新技術の経営的評価と技術開発の方向及び課題の提示
- 中課題整理番号:114a0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2010~2013 年度
- 研究担当者:澤田守
- 発表論文等:澤田(2014)農業経営研究、51(4):8-20