地下水位制御システムの設置費用と収益確保の条件

要約

「FOEAS」設置の償却費は施工面積1haで約23千円/10aである。50ha規模の水田作経営が排水不良田に「FOEAS」を設置し収益向上を図るには、麦・大豆の二毛作を行い、未設置水田よりも大麦で46kg/10a以上、大豆で30kg/10a以上の単収増加が必要である。

  • キーワード:地下水位制御システム、水田作経営、基盤技術の経営的評価
  • 担当:経営管理システム・開発技術評価
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水田作経営では、稲作所得の減少にともない米以外の作物を導入した複合化が模索されている。水田で畑作物を安定的に生産するには、降雨に備えた排水機能と干ばつに備えた灌水機能が必要であり、地下水位制御システム「FOEAS」は、水田の地下水位を制御することで排水と灌水の両機能を実現する技術として注目を集めている。しかし、多額の投資を伴う「FOEAS」設置に対する経営的な効果は十分に検証されていない。そこで、滋賀県A市のB法人を事例に、「FOEAS」設置が経営的な効果をもたらす条件を明らかにする。
B法人は、平坦水田地帯の中核的担い手として約50haの水田を耕作するが、約4分の1が排水不良田であり、これらの圃場を中心に「FOEAS」を積極的に設置している。

成果の内容・特徴

  • 生産基盤工事に相当する「FOEAS」の設置に係わる費用を算出するための計算方法は、以下の特徴を持つことが望ましい(図1)。第一に、工事に伴う地権者等との調整コストの計上、第二に、資産形成分の控除、第三に、資材の改修時期の違いを考慮した耐用年数の設定である。
  • 「FOEAS」の設置費用は施工面積により異なるが、1ha施工の場合、単年度当たりの償却費は10a当たり23千円程度である(表1)。
  • B法人を例に、「FOEAS」設置に係わる償却費を大豆の収量増加で補填するには、10a当たり76kg以上の単収増加が必要である(図2)。
  • 50ha規模の水田作経営では一般に13ha程度の排水不良田を抱える。排水不良田に「FOEAS」を設置して収益(限界利益)の向上を図るには、麦・大豆の二毛作を行い、未設置水田(通常田)よりも高い単収水準(大麦46kg以上、大豆30kg以上)を実現することが必要である(図3)。この収量増加は、栽培試験結果からも技術的に達成可能な水準であることが示されおり、B法人における2011年産大豆の単収は、通常田の180kgに対して「FOEAS」田で240kgと高い単収水準を実現している。

成果の活用面・留意点

  • 資産形成分の控除方法、地権者等との調整コストの算出方法、耐用年数の設定等については、施工工事の事業内容を踏まえた整理が必要である。
  • アーム式ベストドレーン施工により、隣接する複数枚の「FOEAS」設置で、総設置面積が1haの場合の費用である。施工方法、設置面積の規模、設置水田枚数等に応じて設置に係わる費用も変化する。
  • 各分析に用いた収入額には販売金額に加えて、経営所得安定対策に係わる助成金も含まれているため、その金額の変化に応じて必要な収量増加量も変化する。
  • 乾田(通常田)と湿田(排水不良田)が混在する経営事例での評価であり、乾田のみや湿田のみの経営体では、設置の条件となる単収水準に留意する必要がある。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:新技術の経営的評価と技術開発の方向及び課題の提示
  • 中課題整理番号:114a0
  • 予算区分:委託プロ(水田底力)
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:松本浩一、梅本雅、澤田守
  • 発表論文等:松本ら(2013)農業経営研究、51(2):25-30