バクテリオファージのイネ内穎褐変病に対する防除効果

要約

イネ内穎褐変病菌および近縁の細菌を溶菌するバクテリオファージを、本田の開花期のイネに散布すると、イネ内穎褐変病の発病を顕著に抑制する。

  • キーワード:イネ、内穎褐変病、Pantoea ananatis、ファージ、生物防除
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、消費者・生産者の減農薬・無農薬指向が高まり、環境に負荷を与えない防除方法の開発が求められている。バクテリオファージ(ファージ)は、特定の細菌のみに寄生して溶菌するので、標的とする病原細菌の生態や感染機構を考慮して施用するならば発病を抑制し、環境への負荷のない防除素材になる。しかし、ファージは紫外線等に弱く、屋外で単独施用しても速やかに失活してしまうため防除効果がほとんど見られないことが問題であった。そこで、近年夏期の高温により全国各地で多発しているPantoea ananatisによるイネ内穎褐変病を対象に、上記問題を克服する手法を考案し、防除効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • イネ内穎褐変病菌を溶菌するファージ(NARCB200467、ススキの穂から分離)は、北海道から島根県にかけて分離された病原性および非病原性のP. ananatis株の94%(69菌株のうち65菌株)を溶菌する。
  • 鉢栽培した開花期のイネにファージを噴霧し、続いて病原細菌を噴霧接種すると、イネ体上での病原細菌の増殖が抑制される(図1)。
  • ファージを水田の開花期のイネに噴霧して、次に病原細菌を噴霧接種すると、農薬と同等の防除効果を示す(図2)。
  • 平板培地上では、病原細菌を塗抹後にファージを散布すると、形成される病原細菌のコロニー数は1/4,500以下に減少する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本ファージは農薬未登録であり、イネの生産圃場で使用することはできない。ファージを防除資材として使用するためには、本ファージによって溶菌されなかった菌株を溶菌するファージも分離し、混合施用する必要がある。
  • イネの穂には普遍的に非病原性でかつ本ファージの宿主となるPantoea属菌が多数存在し、それらがファージの保護に役立っていると考えられる。
  • イネ内穎褐変病菌の感染好適時期が開花期付近に限られているため、その期間の感染を防げば発病を抑えられる。本ファージの開花期以外の施用による防除効果は、未調査のため不明である。
  • 従来、ファージ耐性菌の出現が防除効果低減につながると考えられていたが、本試験においてイネ体残存菌からファージ耐性の病原細菌は検出されていない。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題整理番号:152a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:畔上耕児、井上康宏
  • 発表論文等:
    1)Azegami K. (2013) J. Gen. Plant Pathol. 79:145-154
    2)畔上、井上(2013)関東東山病虫研報60:11-13