コムギの栽培管理を支援する発育モデル

要約

秋播性程度の異なるコムギ品種について、茎立期を含む主要な発育段階を推定可能な発育モデルである。気温と日長を用いたモデルにより年次変動の大きい茎立期を播種日から5~6日の誤差で推定できる。

  • キーワード:コムギ、発育モデル、茎立期、気温、日長
  • 担当:気候変動対応・気象-作物モデル開発
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・情報利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

コムギの収量・品質の向上のために、茎立期の追肥が推奨されている。また茎立期は凍霜害発生の開始時期や踏圧の晩限にも相当するため、茎立期の予測は適切な栽培管理を行うための技術要素である。しかし、同時期に播種した場合でも年により茎立期に1ヶ月程度の差が生じる場合もあり、平均的な栽培暦による予想では誤差が大きくなる。特に、近年関東を中心に急速に栽培面積が拡大している品種「さとのそら」は、従来品種である農林61号よりも秋播性程度が高く、茎立期を経験的に予測することが難しい。そこで、「さとのそら」と関東以西の従来品種を対象に、複数年次・作期の栽培データより茎立期を含む主要な発育ステージを推定可能なモデル式を作成する。

成果の内容・特徴

  • DVR (発育速度) とその積算値であるDVI (発育指数) を用いた方法により発育段階を推定する。推定可能な発育段階は、出芽期、茎立期、出穂期、開花期、成熟期である。 茎立期は稈長が2cmとなった時期とする(表1)。
  • 推定対象の品種は「さとのそら」 (秋播性程度IV) 、「農林61号」、「シロガネコムギ 」(秋播性程度II)である。
  • 推定に必要なデータは播種日、対象地点の日平均気温および日長である。播種日のDVI値を0として、表1に示す発育相毎に選択された式および品種毎のパラメータを使用して日々のDVRを算出し、DVRの積算値であるDVIにより各発育段階に達する日を推定する。
  • 茎立期の推定に日長を取り入れた式3を使用することで精度が大幅に向上する。播種日から茎立期を予測した場合の誤差RMSE(Root Mean Square Error、二乗平均平方根誤差)は、「農林61号」では5.95日、「さとのそら」では4.6日である(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 本モデルで推定される発育ステージは、作業計画の策定上重要な情報となる。また気温上昇時の発育の変化予測にも活用できる。
  • 式の選択は、式1、2、3の誤差を比較し、誤差の小さい式を採用する方法で行った。ただし、生理学的に日長の影響を受けないと考えられる発育相は気温のみの式1、2を比較した。
  • 図1の検証に使用したデータは、農林水産省委託プロジェクト「水田の潜在能力発揮等による農地周年有効活用技術の開発」において実施された連絡試験の結果である。

具体的データ

図1~,表1~

その他

  • 中課題名:気候変動適応型農業を支援する作物モデルの開発
  • 中課題整理番号:210a1
  • 予算区分:交付金、委託プロ(影響評価、気候適応)
  • 研究期間:2002~2013 年度
  • 研究担当者:中園江、中川博視、大野宏之、吉田ひろえ、佐々木華織
  • 発表論文等:中園ら(2014) 日作紀 83(3):249-259