水田輪作の生産性向上に役立つ地下水位制御システムの活用指針

要約

地下水位制御システム(FOEAS)は、幹線パイプの埋設下部の漏水が少ない圃場への導入が好適で、麦類は排水機能活用、大豆は排水と地下灌漑の両機能の利用で増収するなど、活用指針に従った利用方法により水田輪作の生産性向上が可能である。

  • キーワード:FOEAS、乾田直播、麦類、大豆、野菜
  • 担当:新世代水田輪作
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・生産体系研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

水田営農では、水稲の低コスト化、麦類、大豆では高品質安定生産が大きな課題であり、さらに作業競合の回避や収益性向上のために野菜作導入も期待されている。これらを可能とし水田輪作技術の生産性向上を図る目的で地下水位制御システム(FOEAS、図1)が開発された(2007年度農村工学研究所成果情報)。その普及面積は、現在、9800ha(2014年現在、含施工予定)に達してきており、その利用方法に関する情報が生産現場から強く求められている。そこでこのシステムの特長を活かした各種作物の栽培技術やFOEASの導入条件、維持・管理方法等に関する活用指針を作成する。

成果の内容・特徴

  • FOEAS は地下からの排水と灌漑の両機能を備えた水田用施設で、土壌が過湿時は地下排水、過乾時には地下灌漑を行い、水田で栽培される畑作物の安定生産などに貢献する。
  • FOEASを利用し、効率的な地下灌漑を行うための導入条件は、幹線パイプが埋設される地表下60cm付近に地下水位が存在していること、あるいは幹線パイプ埋設下部の土壌が粘土質で透水性が低く、漏水の危険性が少ない圃場である。
  • 水稲の乾田直播では、播種前は排水促進により播種作業を容易にするとともに、播種後、土壌が乾燥する場合は、地下灌漑によって種子近傍の土壌水分を適湿に維持することにより、出芽・苗立ちを安定化できる。
  • 麦類栽培では、高温・少雨による干ばつが発生しない限り地下灌漑は不要で、FOEASの排水機能の利用により増収する(図2、3)。
  • 大豆栽培では、FOEASの排水効果により梅雨時播種での出芽苗立ちが向上するとともに、夏季の高温・少雨下で土壌が乾燥した条件では地下水位制御により増収する(図2、3)。
  • 野菜では、乾燥時における播種あるいは定植後の地下灌漑により、良好な出芽や苗の活着が得られる。
  • 水稲作後に圃場の排水性が低下した場合、籾殻暗渠や弾丸暗渠の再施工により排水性は回復し、後作の麦類、大豆の生産性を向上できる。
  • 本活用指針については、FOEASの特徴と利用、作物栽培への利用(水稲、麦類、大豆、野菜)、雑草管理、経済性評価事例、留意事項について解説したマニュアルとして取りまとめて広く公表している(図3、図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:FOEASを導入済みか計画している地域の研究者、普及関係者、農業生産者。
  • 普及予定地域:全国。
  • その他:FOEAS導入コストは立地条件等で異なる。マニュアルはホームページからダウンロードできる。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:新世代水田輪作
  • 中課題番号:111a2、111a3、111b1、111b2、111b3、111b4、111b5、 113a3
  • 予算区分:委託プロ(水田底力)、委託プロ(低コスト)、交付金
  • 研究期間:2010~2013年度
  • 研究担当者: 島田信二、原口暢朗、大下泰生、岡田邦彦、新良力也、渡邊寛明、若杉晃介、大野智史、谷本岳、鈴木克拓、関正裕、深見公一郎、藤田与一(新潟農研)、服部誠(新潟農研)、樋口泰浩(新潟農研)、川上修(新潟農研)、南雲芳文(新潟農研)、林怜史、君和田健二、澁谷幸憲、牛木純、村上則幸、大谷隆二、関矢博幸、冠秀昭、齋藤秀文、片山勝之、渡邊和洋、星一好(栃木農試)、石川直幸、増田欣也、菊屋良幸(大分農セ)、近乗偉夫(大分農セ)、田中啓二郎(大分農セ)、白石真貴夫(大分農セ)、唐星児(道総研上川農試)、中山則和、前川富也、加藤雅康、山田善彦(滋賀農セ)、小嶋俊彦(滋賀農セ)、蓮川博之(滋賀農セ)、河村久紀(滋賀農セ)、荒川彰彦(滋賀農セ)、鳥塚智(滋賀農セ)、森山修志(大分農セ)、細野達夫、松尾健太郎、中野有加、中西一泰(全農)、山川紳哉(全農)、村岡賢一(全農)、東野裕広(全農)、阿部浩人(全農)、今泉智通、中山壮一、小荒井晃、石川志保(宮城農園研)、伊藤和子(宮城農園研)、星信幸(古川農試)、松本浩一、梅本雅、澤田守、同前浩司(山口農セ)、奥野林太郎、竹田博之
  • 発表論文等:農研機構(2014)水田輪作における地下水位制御システム活用マニュアル (2014年4月30日)