低温育苗時の出芽期伸長処理と追肥による水稲品種「北陸193号」の苗質改善

要約

生育初期が低温な条件でインド型多収品種を育成すると、苗丈が短くなり、移植後の初期生育も抑制される。播種後、出芽器内での加温期間を延長し、苗を5cmまで伸長させ、置床後に追肥を行うことで、十分な苗丈を確保でき、移植後の初期生育も改善される。

  • キーワード:イネ、インド型多収品種、育苗、苗丈、移植後初期生育
  • 担当:新世代水田輪作・水稲超多収栽培
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年育成された多用途向け多収水稲品種には、低温に弱いとされるインド型品種が含まれる。また、晩生多収品種の栽培においては、早植すると登熟時の気象条件が改善される一方で、生育初期は低温となる。わが国の最多収品種である、晩生のインド型多収品種「北陸193号」は、早植時に苗丈が短くなる等の生育不良が生じ、移植作業時に支障をきたしたり、移植後に水没することで浮き苗や枯死株を増加させることが栽培現場で問題となっている。そこで、低温育苗時に「北陸193号」において生じる生育不良の程度を他品種と比較するとともに、苗形質と移植後初期生育の改善方策について検討する。

成果の内容・特徴

  • 晩植時の温暖な条件でも、インド型多収品種の苗丈は、日本型多収品種や主食用品種にくらべ短い(図1A)。早植時の低温条件では、いずれの品種も苗丈は短くなり、「北陸193号」をはじめとする、半矮性遺伝子を持つインド型多収品種では、稚苗~中苗移植に適する苗丈(約12~15cm)を確保することは難しい。
  • いずれの水稲品種も、移植後が低温となる早植条件では、初期生育量が著しく低下する(図1B)。特にインド型多収品種では、初期生育量の低下程度が大きい。
  • 「北陸193号」の種子を播種後、出芽器内での加温を標準より約3日間延長し、5cm以上に芽を伸ばした後に置床する,出芽期伸長処理(図2)により、苗丈と苗重が有意に増加する(表1)。育苗中に追肥を行うことでも、苗丈や苗重は高まるが、苗丈の改善効果は伸長処理による効果のほうが大きい。
  • また、置床後の追肥は、苗の窒素濃度を高めることで、移植後の生育や初期分げつを改善する(表1)。出芽期伸長処理と追肥を組み合わせることで、約3cm苗丈を伸ばし、稚苗~中苗移植に適した苗丈を確保するとともに、移植後初期生育を促進することが可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 育苗期間や移植後に低温となる寒冷地の早場米地帯において,多用途利用に向けてインド型多収品種を栽培する際の情報として活用。
  • 本試験は、蒸気加温式の出芽器を使用した結果である。出芽器伸長処理では、出芽器内で苗箱の積み重ねを行えないため、必要な箱数と出芽器の苗箱収容能力に留意する必要がある。
  • 出芽期伸長処理後は白化苗が発生しやすくなるため、置床後すぐに直射光にさらさず、被覆資材を用いるなどして十分に緑化を行う。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:水稲多用途利用のための低投入超多収栽培法の開発
  • 中課題整理番号:111a1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2013年度
  • 研究担当者:大角壮弘、平内央紀、吉永悟志
  • 発表論文等:
    1) Ohsumi A. et al. (2012) Plant Prod. Sci.15:32-39.
    2) Ohsumi A. et al. (2015) Plant Prod. Sci.18:407-413