多雪重粘土地帯の地下水位制御システム圃場における水・養分流出

要約

多雪重粘土地帯の水稲-大麦-大豆2年3作の地下水位制御システム圃場では、水位制御により暗渠排水性は低下し、全窒素・硝酸態窒素及び懸濁物質流出量は減少、全リン流出量は増加する。また、大麦期が作付期間の水・養分流出の7~9割を占める。

  • キーワード:地下水位制御システム(FOEAS)、水稲-大麦-大豆2年3作、多雪重粘土地帯、養分流出
  • 担当:新世代水田輪作・重粘地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 025?523?4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北陸地方に広く分布する粘土質土壌は、排水性が低いだけでなく、有効水分が少なく、旱害も受けやすい。地下水位制御システム(FOEAS;藤森,2007)は、密な弾丸暗渠による排水改善に加えて、水位制御により土壌水分を作物に好適な状態にできるとされている。同時に地下水位制御により水流出特性が変化し、養分の流出特性も変化する可能性がある。そこで、多雪重粘土地帯の地下水位制御システム圃場における水稲-大麦-大豆2年3作の作付期間の水・養分流出量と、水位制御が流出特性に与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水稲入水期間以外は灌漑を行わず、水位制御器を開放した開放区では暗渠排水性が高く維持され、全流出水量の9割以上が暗渠経由なのに対し、V直水稲期入水前、大麦期消雪後、大豆期に地下水位を深さ10~30 cmに設定した制御区では7割に留まる。制御区では水位制御により下層が十分乾燥せず、開放区に比べ粗大孔隙が減少する。このため、湿潤状態の大麦期に暗渠排水性が低下したと推察される。また、水の8割は降水が多い大麦期積雪前と積雪期(12月22日~3月30日)に流出する(図1)。
  • 2年3作の中で最も施肥量が多い大麦期の積雪前に窒素の高濃度の流出が生じる。リンについては、施肥と濃度の関係は判然としない(図2)。
  • 制御区では、開放区に比べて同時刻に採取した暗渠流出水中全窒素・硝酸態窒素・懸濁物質濃度は低く、全リン濃度は高い傾向にある(表1)。制御区では水位制御に起因する湿潤状態の継続に伴う脱窒の進行及び硝化の抑制により窒素濃度が、分散土壌粒子の流出経路となる粗大孔隙の発達の抑制により懸濁物質濃度が低下する一方、還元の発達に伴う可溶化によりリン濃度が上昇するためと推定される。
  • 2年3作の作付期間を通じた養分流出量は概ね流出水量に対応し、大麦期が全作付期間の流出量の7~9割を占める。制御区は、開放区に比べて全窒素、硝酸態窒素及び懸濁物質流出量は少なく、全リン流出量は多い(図3)。これは、水位制御が下層の粗大孔隙の減少及びそれに伴う還元状態の発達を介し、水の流出経路だけでなく成分濃度にも影響を与えるためである。

成果の活用面・留意点

  • この成果は、多雪重粘土地帯における地下水位制御システム圃場の機能維持のための管理手法の開発及び窒素・リン等の養分収支の把握のための基礎情報として活用できる。
  • 測定圃場(各20a)ではFOEAS施工翌年に大豆を栽培し、本研究はその翌年からの2年3作作付期間の結果である。水稲は不耕起V溝直播栽培(愛知県,2003)を行った。
  • 中粗粒質のような物理的・化学的性質が異なる土壌の圃場では、水位制御が水・養分流出特性に与える影響が本研究の結果と異なる可能性がある。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:多雪重粘土地帯における播種技術及び栽培管理技術の高度化による水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b2
  • 予算区分:交付金、委託プロ(水田底力)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:鈴木克拓、大野智史、谷本岳
  • 発表論文等:鈴木ら(2014)土壌の物理性、127:19-29