イネとダイズの簡便な高密度水耕栽培法(Single-tube hydroponics)

要約

幼植物体をプラスチックチューブに挿しこんでチューブスタンドに並べ、それごと液体培地に浸漬して水耕栽培を行う。高密度な植物体の配置が可能であり、室内型人工気象機等の限られたスペースでも、より多くの個体から次世代種子を得ることができる。

  • キーワード:水耕栽培、作物種子、イネ、ダイズ、人工気象機
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・作物開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

限られたスペースで比較的短い期間内に次世代種子を得る技術は、基礎研究や品種育成の加速に重要である。特に遺伝子組換え作物を扱う場合は、隔離温室等の設備的ハードルがより高くなり、それが研究発展の大きな阻害要因となっている。そこで、人工気象機(室内型インキュベーター)を使用して出来るだけ多くの個体から次世代種子を得るために、簡便に植物体を高密度に栽培する方法を開発する。その際には、汎用機材を用いるとともに作業手順の簡略化を図り、安価で省力的なシステムの構築をめざす。

成果の内容・特徴

  • 本水耕栽培法(Single-tube hydroponics)の特徴を図1に示す。穴をあけたプラスチックチューブに幼植物体を挿し込み(図1a)、それらをチューブスタンドに並べた後、培地を入れたトレーにそのまま浸漬して水耕栽培を行う(図1b)。
  • トレーサイズとチューブの配置法を調整することで、栽培規模を様々に設定できる。一般的な人工気象機の床面(約50cm四方)でイネを栽培する場合、図1b に示したトレーセット(211x151x77mm、24本立)が6個入るので、合計で144個体を配置できる。
  • 水耕液は、Murashige-Skoog無機培地(MS無機塩)を通常の1/10濃度に希釈し、pH調整を行わずに使用する。2週間に1度、新しい培地を入れたトレーにチューブスタンドごと植物体を移すことで水耕液の交換を行う。
  • イネ「日本晴」を144個体同時栽培した場合、全ての個体から種子を得られ(表1)、播種から収穫までは約4ヶ月である。「日本晴」「コシヒカリ」などの日本の栽培品種は、栽培時の高さが65cm程度におさまり、庫内を分割して2段栽培ができる(図1c)。
  • 本法は、栽培条件を一部変更すればダイズにも適用できる(表1)。60cmの支柱をチューブに挿し込むと、茎が巻き付いて直立するため栽培しやすい。イネと同様に2段栽培が可能であり、床面あたり36個体、人工気象機あたり72個体を設置できる。「エンレイ」の場合、播種から収穫まで約2.5ヶ月である。

成果の活用面・留意点

  • 播種時に種を殺菌処理してあれば、栽培途上の病害防除は不要である。
  • 本水耕栽培法の詳しいマニュアルを準備しており、担当者に利用希望の連絡があった場合は配布している。
  • 原法では1/10濃度に希釈したMS無機塩培地を水耕液として使用しているが、他の種類の水耕液に置き換えることは可能である。また、アズキ、トウモロコシについても同様の方法で種子を収穫できるが、収穫種子数が少ない場合が多く、栽培条件等のさらなる検討が必要である。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題整理番号:112b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2014年度
  • 研究担当者:黒田昌治、池永幸子
  • 発表論文等:Kuroda M. and Ikenaga S. (2015) Biosci. Biotechnol. Biochem. 79:63-67