水稲作期拡大と販売促進を両立させる大規模稲作の直接販売ビジネスモデル

要約

水稲作期拡大に不可欠な水稲品種と栽培法の組み合わせを行いつつ、品種や栽培法ごとに販売先や価格、販促活動などの組み合わせを変えることで、機械施設の稼働率向上による製造原価削減と米の販売促進を両立が可能なビジネスモデルである。

  • キーワード:大規模稲作経営、作期拡大、マーケティングミックス、ビジネスモデル
  • 担当:経営管理システム・ビジネスモデル
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大規模稲作経営では、水稲作付面積が15haを超すと、農業機械が複数体系へと移行することなどから、規模の経済が発揮されにくくなるとされている。このため、移植と直播の組み合わせや作期の異なる水稲品種の組み合わせにより、作付期間の延長と機械・施設の稼働率向上に取り組む先進経営が現れている。それに伴って必要となる消費者になじみの薄いマイナー品種の販売方策として、商品の種類、販売先、価格、販促方法を組みあわせて販路拡大をめざすマーケティングミックスに取り組む先進経営(茨城県の100ha規模のY経営)の分析から、大規模稲作直接販売ビジネスモデルを提示する。

成果の内容・特徴

  • 100ha規模の稲作を、トラクター4台、田植機2台、コンバイン1台など最小限の機械施設で経営することで製造原価を引き下げ、生産された米の全量を直売することで収益向上をめざすビジネスモデルである(表1)。
  • 水稲の直播・移植のスケジュールを見ると(表2)、通水開始前の乾田直播から、「あきたこまち」、「コシヒカリ」、「ゆめひたち」、「マンゲツモチ」等の品種・栽培法を組みあわせて栽培期間を延長し、機械施設の稼働率を上げることで、都府県15ha以上層に比べて25%の製造原価削減を実現している。
  • 米販売におけるマーケティングミックスについてみると(表3)、「コシヒカリ」については有機栽培したものを小ロット・高単価で個人向けにネット販売するほか、長期安定取引をしてくれる飲食店を商談会や飲食店同士の口コミを通じて開拓している(各々売上げの約1割)。販売先の約7割を占める地元スーパーチェーンについては、棚割と値付けをまかされることで、有機と一般の「コシヒカリ」から値頃品の「あきたこまち」、「ゆめひたち」まで複数品種を用意し、2kg、5kg、10kg袋といった量目の違いや玄米販売も含め10アイテム以上という多彩な品揃えで、販売促進を行っている。また、「あきたこまち」は地元顧客向けに30kg紙袋を中心に値頃価格で販売、「マンゲツモチ」は加工用米として和菓子屋等との地域流通契約で販売を行っており(各々売上げの約1割)、こうした取り組みが「コシヒカリ」以外のマイナー品種の販路確保につながっている。
  • 規模拡大を進める中で、品種・栽培方法の組み合わせによる製造原価削減と多様な商品と販売先等との組みあわせによる販売促進を並進させることが本ビジネスモデルのポイントであるが(図)、それに伴う経営管理領域の拡大に対応するためには、販売担当者等の人材の確保・育成が必要となる(Y経営では栽培部門の管理を担う中間管理職員1名と精米・販売専従職員1名をおいている)。

成果の活用面・留意点

  • 栽培品種が限られるため規模拡大によるコストダウンが限界を迎えつつある15haを超すような大規模稲作経営が今後の経営計画を策定する際の参考となる。
  • 水稲の栽培適期が長く、水利上の制約の少ない複数品種・栽培法の導入が容易な地域での適用が想定される。

具体的データ

図,表1~3

その他

  • 中課題名:地域農業を革新する6次産業化ビジネスモデルの構築
  • 中課題整理番号:114b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:宮武恭一
  • 発表論文等:宮武恭一(2014)農業経営研究、52(1・2):49-54