PCRのためのイネいもち病菌DNAの簡易調整法(Paper-Disc法)

要約

乾燥菌体培養ろ紙片を用い、PCRに利用可能な簡便なイネいもち病菌のDNA調整法を開発した。本法に使用する試薬はTEバッファーのみであり、DNA調整液は、本菌ゲノムにコードされる約1.5kbまでの断片が増幅可能である。

  • キーワード:イネいもち病菌、DNA、簡易調整法、PCR、ろ紙
  • 担当:環境保全型防除・水稲病害抵抗性
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネいもち病菌の個体識別や薬剤耐性菌の遺伝子診断などの場面では、Polymerase chain reaction (PCR)をベースにした手法が主流であり、使用するDNAは少量で十分なことが多い。本菌においても、他の糸状菌と同様、市販のDNA抽出キット等の普及によって省力化が進んでいる。しかし、本菌では、菌体や培地成分から溶出される反応阻害物質の影響などが不明であり、安価で、簡便さおよび安定性を備え、かつ、多検体処理に耐えうる調整方法の報告はない。そこで、simple sequence repeat(SSR)マーカー解析や薬剤耐性遺伝子診断を目的としたPCRのための、簡易で安定ないもち病菌DNAの調整法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本簡易DNA 調整法(Paper-Disc法とする)は以下の通りである(図1)。
    (1) 滅菌ろ紙片(No.1、φ6mm、アドバンテック)5枚程度を配した0.5%ショ糖加用オートミール寒天培地(φ60 mmシャーレ)に、単胞子分離したいもち病菌を26°Cで、菌糸がろ紙表面を軽く覆う程度(7~10日間)培養し、菌体培養ろ紙片を回収する。
    (2) 菌体培養ろ紙片はシリカゲルの入った容器もしくはデシケーターで十分に乾燥させる。
    (3) 乾燥菌体培養ろ紙片を1.5mlマイクロチューブに入れ、TEバッファー(10 mM Tris-HCl、1 mM EDTA、pH 8.0)200μlを添加後、遠心(15,000 rpm、4°C、30 分間)し、その遠心上清をDNA調整液とする。
  • 本法により調整したDNAは、いもち病菌ゲノムに単コピーでコードされる遺伝子(シタロン脱水素酵素遺伝子SDH、accession no.AB004741、約0.7kb)および多コピー遺伝子(転移因子Pot2、accession no.Z33638、約1.5kb)の双方を増幅することができる(図2)。
  • 未乾燥では、培養期間に関わらず単コピーのSDH遺伝子の増幅が認められないため、菌体培養ろ紙片の乾燥は必須である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本法により調整したDNAは、QoI剤耐性菌(ミトコンドリアゲノムの変異)の検出にも使用できる。
  • 調整したDNAは冷蔵(4°C)で8週間保存可能である。なお、保存を要しない場合は、遠心処理を省略できる。
  • 菌の培養期間は培養条件で異なる。
  • ろ紙片によるイネいもち病菌株保存作業に併せて実施できる。
  • 試薬のコストは、1試料あたり10円以下である。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:水稲の病害抵抗性の持続的利用技術の開発
  • 中課題整理番号:152c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(ゲノム)
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:早野由里子、林敬子、芦澤武人、鈴木文彦
  • 発表論文等:早野ら(2015)日植病報、81(2):141-143