伸長反応1秒PCRによるQoI剤耐性イネいもち病菌の診断

要約

イネいもち病菌のQoI剤耐性を診断するために開発した、チトクロームb遺伝子の点変異多型を検出するPCRマーカー2種(B428gSおよびB428gDC)は、伸長反応1秒としたPCRによりそれぞれ3時間以内にQoI剤耐性変異の検出が可能である。

  • キーワード:イネ、いもち病菌、QoI剤耐性、伸長反応1秒PCR、検出
  • 担当:環境保全型防除・水稲病害抵抗性
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物病原菌の薬剤耐性の獲得は、薬剤のターゲットとなる生体物質の遺伝子の点変異によることが多い。このため、薬剤耐性菌の遺伝子診断では、Polymerase chain reaction (PCR)をベースにした点変異の検出が主流となっている。しかし、点変異多型(single nucleotide polymorphism)を1回のPCRのみで安定的に検出することは難しく、多くの場合Fnu4HI等の高価な制限酵素処理を組み合わせた方法が取られている。そこで、点変異多型検出の不安定さを克服し、迅速かつ安価で高精度な、ストロビルリン系殺菌剤(QoI剤)耐性イネいもち病菌の遺伝子診断のためのマーカーおよび検出法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本検出法で使用する2種のマーカーB428gSおよびB428gDCは、アミノ酸変異(G143A)に関わるチトクロームb遺伝子428番目の塩基変異をターゲットとする(図1a)。
  • 目的断片の増幅の確実性を向上のため、PCRにおける伸長反応時間を1秒に設定する(図2a)。その結果、PCR時間を1時間に短縮する(図2b)。
  • 2種のマーカーは目的により使い分ける。4種のプライマーから構成されるduplexマーカーB428gSは時間の短縮を、2種のプライマーから構成されるdCAPSマーカーB428gDCは判別の精度を優先する場合に使用する。
  • duplexマーカーB428gSは1回のPCRのみで野生(感受性)型と耐性型を同時に判別する。野生型は208bp、耐性型は173bpの断片の増幅が見られる(図1b上および図2b)。
  • dCAPSマーカーB428gDCは、PCRと制限酵素PvuII処理の2段階の反応で得られる、239bp断片のみ(野生型)、204bpおよび35bpの2つ断片(耐性型)により判別する(図1b下および図2b)。
  • 本検出に用いるDNAは市販キット等により調整されたDNAの他、簡易調整法であるPaper-Disc法(早野ら,2015)により調整されたDNAも使用できる(図1b)。

成果の活用面・留意点

  • 本法とPaper-Disc法の組み合わせにより、QoI剤耐性イネいもち病菌の効率的なスクリーニングが可能となる。Paper-Disc法の詳細は、早野ら(2015)日本植物病理学会報,81(2)(印刷中)を参照されたい。
  • 使用するPCR酵素はTaq HS(TAKARA、R007A)と同様に、HotStart有および校正機能無の、校正機能有PCR酵素に比べ4~18円/検体の比較的安価なものを推奨する。
  • PCRの所要時間はPCR機器および酵素により若干前後する。
  • 制限酵素PvuIIは、活性至適塩濃度が一般的なPCRバッファーの塩濃度に近く、PCR後の塩濃度調整を要しない。また、価格はFnu4HIの約1/32(2014年12月現在)と安価である。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:水稲の病害抵抗性の持続的利用技術の開発
  • 中課題整理番号:152c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(ゲノム)
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:早野由里子、林敬子、芦澤武人、鈴木文彦
  • 発表論文等:発表論文等:Hayashi K. et al.(2015) J. Gen. Plant Pathol.,81:131-135 doi:10.1007/s10327-014-0573-8