畑作物の作付け頻度が高い地下水位制御システム圃場の排水性

要約

北陸地方の重粘土水田において、FOEAS整備後に転作を優先した圃場では排水が促され、施工10年後でも地下排水機能が維持される。また、RTK-GPSを用いると弾丸暗渠の位置をより正確に特定でき、維持管理に利用できる。

  • キーワード:地下水位制御システム、多雪重粘土地域、弾丸暗渠、経年劣化、水田輪作
  • 担当:新世代水田輪作・重粘地水田輪作
  • 代表連絡先:電話025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現行の食料・農業・農村基本計画では「農業の持続的な発展に関する施策」を遂行する新技術の一つに地下水位制御システムが挙げられている。FOEASは地下水位制御システムの一つであり、機能を十分に発揮させるためには、圃場内に穿孔された弾丸暗渠に高い通水性が求められる。一方で複数回の代かきを伴う稲作による排水機能の低下が指摘されている(冠ら 2007、若杉ら 2013)。重粘土水田が広く分布する北陸地方でも、排水性低下が課題である。本成果は重粘土水田に施工され、転作作物を中心の栽培を行い、かつ、暗渠の設定水位が低く保たれた場合のFOEAS圃場において弾丸暗渠の排水性を分析する。

成果の内容・特徴

  • 調査対象は、土壌亀裂の発達促進など、排水を促すためにFOEAS整備後に転作の導入を優先した圃場である。FOEAS整備時に施工される弾丸暗渠はスリット部分に籾殻を入れる弾丸暗渠と入れない弾丸暗渠が交互に施工されており、前者の排水性を評価するために、後者の弾丸暗渠を再施工し、それぞれの直上および中間地点(以下、「暗渠なし地点」という。)において現場透水試験により比較を行う(図1)。また、降水時の排水性を比較するために、先の3点に本暗渠直上を加えて地下水位を測定する。
  • 現場透水試験から算出したベーシックインテークレートは、踏圧等により一時的な低下がみられる。しかし、FOEAS整備の際に施工された籾殻が充填された弾丸暗渠(以下、「旧施工暗渠」という。)の排水機能は、比較のために再施工した籾殻を充填した弾丸暗渠(以下、「再施工暗渠」という。)と変わらず良好であると考えられる(図2)。
  • 降水時の地下水位変化から地下水位低下速度(地下水位の最高値から田面下300mmに到達するまでの速度)が求まる。その結果、旧施工暗渠は本暗渠および再施工暗渠と同等の値であり、旧施工暗渠の地下排水機能が維持されていることを示している(図3)。また、暗渠なし地点の地下水位低下速度から、同圃場では汎用農地に求められる計画暗渠排水量の標準値(30~50mm/d;農林水産省構造改善局、2000)を満たしていると考えられる(図3)。なお、FOEASの設定水位は田面下300mmまたは600mmである。
  • 本成果の調査のように、暗渠、弾丸暗渠、疎水材等の地表面下の状況を定期的に目視で確認するためには、同一地点を掘削することが理想的である。営農作業に支障を来すため、圃場内に目印を設置することは困難であるが、RTK-GPSを用いると正確な位置特定が可能である。同機器で得られた位置情報の標準偏差は非常に小さく、口径100mmの暗渠管や弾丸暗渠の位置を特定するには十分な精度を有している(図省略)。

成果の活用面・留意点

  • 調査を行った圃場では転作が重視され、FOEAS施工直後に大豆を栽培し、以後大豆、大豆、大豆、移植水稲、大豆、大豆、大豆、移植水稲の順に作付けられ、再施工に至る。
  • 現場透水試験では作土層を取り除き耕盤層を露出させた状態でシリンダーを10cm打ち込んで測定している。水平方向の弾丸暗渠を遮断しないよう留意が必要である。
  • 市販の単独測位式GPSの精度では、弾丸暗渠の位置特定は不可能である。

具体的データ

その他

  • 中課題名:多雪重粘土地帯における播種技術及び栽培管理技術の高度化による水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b2
  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:坂田賢、大野智史、谷本岳、鈴木克拓、加藤仁
  • 発表論文等:
    1)坂田ら(2015)農業農村工学会論文集、298:IV_17-IV_18