短稈遺伝子sd1のアリルにより、イネ玄米のタンパク質含量がコントロールできる

要約

玄米のタンパク質含量のQTLが第1染色体に有り、インディカ型劣性で高タンパク質含量を示す。この原因遺伝子は短稈遺伝子sd1であり、低脚烏尖およびCalrose 76由来のsd1では高タンパク質含量を示すが、レイメイ由来のsd1では示さない。

  • キーワード:短稈遺伝子、SD1、タンパク質含量、QTL、イネ
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・作物開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

タンパク質は米の重要な成分のひとつであるが、高タンパク質含量の米では食味が低下するため、日本では低タンパク質含量の米が求められている。一方、世界、特に発展途上国に目を向ければ、米のタンパク質は栄養不足を補う重要な要素として重要視されており、高タンパク質含量の米が求められている。このように、異なるタンパク質含量の米が求められている状況では、目的に応じてタンパク質含量を変える必要があり、玄米のタンパク質含量を制御するQTL・遺伝子を同定する必要がある。

成果の内容・特徴

  • ハバタキ-ササニシキの戻し交配固定系統を用いたQTL解析で、第1染色体の長腕側にハバタキ型で玄米のタンパク質含量を増加させるQTLが見出される(図1)。
  • このQTLをヘテロで持つ系統は、「ササニシキ」と同様に低いタンパク質含量を示し、劣性型はタンパク質含量が高い(図省略)。
  • このQTLの原因遺伝子は、短稈遺伝子sd1である(図2)。
  • ハバタキ型分離系統では、茎葉部でもタンパク質含量が高い(図3)。ハバタキ型分離系統や「低脚烏尖」、「Calrose 76」では、sd1の影響で植物体がコンパクトになり、穂も小さくなったが、同程度の窒素吸収能力を保持しているため、相対的にタンパク質含量が高い。一方「レイメイ」では、「低脚烏尖」や「Calrose 76」に比べて短稈の程度が小さく、また穂数と穂の大きさが共に差がなかったため、原品種とタンパク質含量に差が無い(データ省略)。
  • 短稈を示すsd1を有するハバタキ型分離系統および短稈突然変異品種である「低脚烏尖」と「Calrose 76」では、各々、長稈を示すSD1を有するササニシキ型分離系統および原品種「烏尖」と「Calrose」に比べて、玄米タンパク質含量が高い(図4)。しかし、sd1を有する短稈突然変異品種の「レイメイ」は、原品種「フジミノリ」と同等のタンパク質含量を示す(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 短稈品種を育成する場合に、タンパク質含量を高めたい場合には、「低脚烏尖」や「Calrose 76」由来のsd1を、高めたくない場合には、「レイメイ」由来のsd1を利用することにより、タンパク質含量をコントロール可能である。なお、各々のsd1遺伝子は遺伝子の構造の違いに基づいたDNAマーカーを設計することで選抜できる
  • ただし、「レイメイ」由来のsd1では、「低脚烏尖」や「Calrose 76」由来に比べて、短稈化の力が弱いため注意が必要である。
  • 他品種背景でのsd1の影響は調べてないので、利用の際には、検証が必要である。

具体的データ

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題整理番号:112b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2014年度
  • 研究担当者:寺尾富夫、廣瀬竜郎
  • 発表論文等:Terao T, Hirose T (2015) Mol. Genet. Genom. 290(3):930-954