白葉枯病菌感染後のオーキシン蓄積の抑制および白葉枯病抵抗性の向上に関与するOsSAUR51遺伝子
要約
白葉枯病圃場抵抗性が低下した突然変異イネ系統XC20で同定したOsSAUR51は、白葉枯病感染後のオーキシン蓄積の抑制を介して白葉枯病斑の伸長を抑制する白葉枯病抵抗性遺伝子である。
- キーワード:稲、白葉枯病、圃場抵抗性、SAUR、オーキシン
- 担当:作物開発・利用・稲遺伝子利用技術
- 代表連絡先:電話025-523-4131
- 研究所名:中央農業総合研究センター・作物開発研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
病害抵抗性品種を育成するためには、イネの病害抵抗性機構を解明し、その機能向上を図ることが必要である。白葉枯病圃場抵抗性が「やや強」であるイネ品種「日本晴」で見つかった白葉枯病親和性突然変異XC20は機能未知の抵抗性遺伝子がレトロトランスポゾンTos17の挿入により機能を失った突然変異であるため、この遺伝子を解析することにより、イネがもつ病害抵抗性機構の一つを解明する。
成果の内容・特徴
- 「日本晴」由来のTos17突然変異体XC20は5菌系の全ての白葉枯病菌に対して特異性無く抵抗性が低下するため、白葉枯病圃場抵抗性に関連する遺伝子が変異を受けていると推定される。この突然変異の原因遺伝子はOsSAUR51であり、プロモーター領域を含む野生型OsSAUR51をXC20に再導入すると、白葉枯病抵抗性が回復する(図1)。
- OsSAUR51は第9染色体上に座乗する144aaのタンパク質をコードする遺伝子で、オーキシンによって誘導されるSAUR(small auxin up RNA)ファミリー遺伝子の一種である。これまで白葉枯病菌の感染によりイネにオーキシンが蓄積すること、オーキシンにより植物の防御物質であるPRタンパク質等の誘導が抑制されることが報告されている。
- XC20では白葉枯病感染後のオーキシン蓄積量が原品種よりも増加するのに対し、プロモーター領域を含むOsSAUR51を再導入したXC20組換え体ではオーキシン蓄積量がXC20よりも減少し、原品種とほぼ同等になる(図2)。
- 35S改変型高発現プロモーターRexφによりOsSAUR51を高発現させた「どんとこい」組換え体は、原品種「どんとこい」よりも白葉枯病菌(race IIIA)感染後のオーキシン蓄積量が減少するとともに(図3)、白葉枯病斑の伸長が抑制され、原品種と比較して抵抗性が向上する(図4)。
成果の活用面・留意点
- OsSAUR51の解析は白葉枯病菌感染後に増加するオーキシン蓄積量の抑制を介して病害抵抗性を向上させる新しい観点での抵抗性機構の研究に利用できる。
- 白葉枯病菌感染後には菌系に関わらずオーキシン蓄積の増加が見られるので、OsSAUR51は菌系に対する特異性を持たない抵抗性遺伝子であることが考えられる。
具体的データ
その他
- 中課題名:次世代高生産性稲開発のための有用遺伝子導入・発現制御技術の高度化と育種素材の作出
- 中課題整理番号:112c0
- 予算区分:交付金、委託プロ(ミュータントパネル)
- 研究期間:2011~2015年度
- 研究担当者:青木秀之、大西敦子(京都大)、宮下正弘(京都大)、宮川恒(京都大)、斎藤浩二、矢頭治
- 発表論文等:
1)青木ら (2006) 北陸作物学会報、41: 24-28
2) Aoki H. et al. (2016) JARQ、 50(3) 219-227.