担い手経営による先端技術の導入と最適経営計画に基づく地域食料供給予測モデル

要約

先端技術の開発と普及の効果を評価できる地域食料供給予測モデルを開発した。この予測モデルを用いることによって、先端技術を導入した担い手経営による食料供給の予測を任意の地域単位で実施することができる。

  • キーワード:先端技術の普及、担い手経営の規模拡大予測、食料供給予測モデル
  • 担当:経営管理システム・開発技術評価
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

今後、担い手経営の急速な規模拡大が進むと想定され、先端技術の導入に伴う地域農業や食料供給力の変化を明らかにすることが求められている。本課題では、先端農業技術の開発による農業経営・地域農業の革新や食料供給力への影響を評価できる予測手法を開発する。具体的には、地域農業の担い手経営の規模拡大プロセスを予測し、先端技術を導入する担い手経営の経営規模水準に応じた最適な営農計画を求めて地域における潜在的な食料供給力を予測するモデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • 地域農業を支える担い手農家を特定しその規模拡大プロセスを予測するモデル。
    ここでは、農林業センサスの個票データを用いて担い手農家の特定と年々の規模拡大を予測する。
    ◆方法-農家を担い手農家、ホビー農家、離農予備群農家に次の基準で分類する。
    担い手農家の条件-経営規模10ha以上、世帯主の年齢が75歳未満で年間150日以上農業に従事、年間60日以上農業に従事する後継者がいる、主要農業機械を全て保有。ホビー農家の条件-経営規模10ha未満、世帯主・後継者とも60日以上農業に従事、主要農業機械を保有。離農予備群農家-経営規模10ha未満、農業後継者無し、後継者がいても農業に従事していない、農業機械の装備が不十分。
    ◆世帯主の年齢を1年ごとに1歳加え、75歳で引退すると想定。引退時期に、上記の条件を判断して3タイプの農家のいずれに属するかを判断する。離農予備軍農家の離農時期を判定し、離農が予測された場合は離農する農家の農地は地理的に近くにいる担い手農家が借地して規模拡大を実現すると仮定する。以上のシミュレーションを指定した期間で実施し、担い手農家の規模拡大プロセスを評価する(表1、図1)。
  • 先端技術を導入する担い手農家の最適営農計画策定モデルの開発
    営農計画モデルは、先端技術導入に関する実証試験成績、都道府県の標準技術体系データ、調査農家のデータなどを総合的に活用して策定する。営農計画モデルは、予測される担い手経営の経営規模を適切にトレースできるように設定し(例えば、15ha、25ha、35ha、45ha、60ha、80ha、100ha等)、目標所得を実現できる最適な作物の組み合わせを線形計画法により推定する(表2)。
  • 予測した担い手経営ごとの毎年の経営規模に対応した最適経営計画における作物生産面積を、担い手農家の経営規模に最も近い営農計画モデルを用いて推定する。
  • 現行技術と先端技術導入による分析対象地域の食料供給力を予測
    ここでは、個々の担い手農家の経営規模に応じた最適作物生産の組み合わせを下に、現行の技術水準と先端技術の導入による食料供給量の毎年の変化を予測する。表3は茨城県の筑西市を対象に、開発した予測モデルを用いて、食料供給量の20年間の変化を先端技術と標準技術を採用した2つのケースで予測したものである。この結果から、現行の低米価と麦、大豆優遇政策の下では、先端技術を用いて大豆や麦をより多く生産し、水稲は規模拡大とともに移植よりも乾田直播を選択することが経営面で有利になること、担い手農家への農地集積が進めば先端技術の普及により、担い手農家による食料の供給力は大きく増加する可能性があることが示された(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 開発した食料供給予測モデルは、全国いずれの地域でも適用可能であるが、適用にあたっては、2010年もしくは2015年のセンサス個票データ、分析対象都道府県の標準技術体系データ等が必要となる。

具体的データ

その他

  • 中課題名:新技術の経営的評価と技術開発の方向及び課題の提示
  • 中課題整理番号:114a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015年度
  • 研究担当者:門間敏幸、松本浩一、房安功太郎
  • 発表論文等:門間(2016)関東東海農業経営研究、106:5-18