黄色粘着トラップおよびJPP-NETの有効積算温度計算シミュレーションを利用した簡便なヒメトビウンカの発生予察

要約

黄色粘着トラップ調査法およびJPP-NETの有効積算温度計算シミュレーションによる発生予測を用いることにより、イネ縞葉枯病を媒介するヒメトビウンカ第1世代成虫の水田への飛来時期および第2世代成虫の水田内の発生時期を効率的に把握できる。

  • キーワード:ヒメトビウンカ、発生予察、黄色粘着トラップ、JPP-NET、有効積算温度
  • 担当:環境保全型防除・侵入病害虫リスク評価
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、関東、近畿および九州地方の一部の地域でヒメトビウンカが媒介するイネ縞葉枯病の発生面積が増大している。本病の防除対策を実施するうえで、ヒメトビウンカおよびイネ縞葉枯病の発生時期と発生量、ヒメトビウンカのウイルス保毒虫率等の調査がこれまで以上に重要になり、こうした調査を効率的に行うための技術開発が望まれている。このため、従来法と比べて簡便にヒメトビウンカの発生時期を把握する方法として、黄色粘着トラップを用いた発生消長調査法ならびに日本植物防疫協会のJPP-NET上で作動する有効積算温度計算シミュレーションのヒメトビウンカ発生時期の予測手法への適応性を検討する。

成果の内容・特徴

  • 黄色粘着トラップ(図1)を用い、作物の草冠高が約60cmまでの期間は、粘着板の上辺を地面から40cmの高さに設置し、それ以降は作物の生育に合わせて草冠高より20cm程度低く調整することによりヒメトビウンカ成虫を効率よく誘殺できる(図2)。また、トラップの設置場所は畦畔から1~20mの範囲であれば、ほ場内でほぼ同じ結果が得られる。
  • 水田における黄色粘着トラップの誘殺消長は、捕虫網によるすくい取りの捕獲消長と同じ傾向を示す(図3)。特に6月上旬ではすくい取り調査の成虫捕獲数が少ないのに対し、黄色粘着トラップではピークが明瞭である。また、黄色粘着トラップは越冬世代成虫の発生ピークも捕捉できるため、水田圃場の他に、畦畔、ムギ畑などのヒメトビウンカの発生場所を複数調査地点として選んで設置、経時的な調査を実施することにより、ヒメトビウンカの年間の発生消長が把握可能である。
  • JPP-NET上で作動する有効積算温度計算シミュレーションを用い、1月1日時点で4齢と5齢の中央点(有効積算温度238.45日度)で越冬すると仮定してヒメトビウンカの発育パラメーター(表1脚注)を入力し計算した予測結果は、黄色粘着トラップおよびすくい取りによる捕獲消長のピークと概ね一致する(図3)。また、6月および7月の成虫発生実測日と予測日はよく一致し、水田に飛来する第1世代成虫および水田内で発生する第2世代成虫を高い精度で予測可能である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 黄色粘着トラップによる調査法と有効積算温度計算シミュレーションによる発生予測を併用することで、成虫だけでなく幼虫についても同様に発生時期の把握が可能であり、ヒメトビウンカおよびイネ縞葉枯病の発生予察および防除対策に活用できる。
  • 茨城県筑西市のデータによる検証結果であるため、本手法を導入する際にはその地域における適応性を検証する必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:侵入病害虫等の被害リスク評価技術の開発及び診断・発生予察技術の高度化
  • 中課題整理番号:152e0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:平江雅宏、柴 卓也、奥田 充、鈴木清樹、大藤泰雄
  • 発表論文等:
    1)平江、柴(2015)関東東山病虫研会報、62:110-115
    2)平江、柴(2016)植物防疫、70(2):3-7