プレミアム価格を用いた地域ブランドの価値推計法
要約
プレミアム価格から地域ブランドの価値を推計するには、市場価格で最低値を示すノンブランド品と当該ブランド品との価格差に着目し、複数年の加重平均を比較する。この方法により、ブランド戦略の効果を簡易に計測することができる。
- キーワード:地域ブランド、プレミアム価格法、ブランド戦略、市田柿
- 担当:加工流通プロセス・食農連携
- 代表連絡先:電話 029-838-8481
- 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
現在、地域の産業競争力向上を図るため、各地域に固有の資源やイメージを活用した地域ブランド形成が政策的に振興されている。そうしたブランド・マーケティングを行う際には、戦略とその効果を判断するための指標として、ブランド価値を正しく評価することが必要である。ブランド価値の評価手法は複数開発されているが、それらの多くは企業ブランドの価値を推計するためのものであり、地域ブランドの推計には適用できない。その中で、プレミアム価格法はブランドの本質的効果としての商品の価格差に着目した手法であるため、多くの事例に適用が可能である。そこで、プレミアム価格を用いた地域ブランドの価値推計法を策定する。
成果の内容・特徴
- 地域ブランドの価値をプレミアム価格法で推計する際には、消費者がある特定のブランドの商品を選好する場合の、ノンブランド品との価格差に着目する。その推計に用いる価格データは、当該ブランドと対照品のそれぞれについて、仮想的なデータとしてはアンケートで消費者の支払意思額を確かめる方法が、現実のデータとしては卸売市場価格やPOSデータに基づく小売市場価格を調べて比較する方法などがある(表1)。
- 同じ商品でも卸売市場価格は地域によって異なるため、目的に応じた市場の選択と組み合わせが必要である(1.価格水準の選択)。また、当該ブランドと比較対照するノンブランド価格としては、同種の商品の中で価格優位性がない、すなわち最低値を示す産地のうちデータに整合性のあるものを選ぶ(2.比較対象の選択)。このような市場価格には年度によるバラツキもあるので、長期的に見込まれる利益水準を計算するために、複数年の加重平均を採る(3.ブランド価値の推計)(図1)。
- 他の干し柿より平均して高い市場価格を示す「市田柿」を事例としてプレミアム価格法を適用する。「市田柿」が地域団体商標を取得した2006年を基準年とし、その前後5年間で加重平均した大阪市中央卸売市場の価格差(市田柿-その他)は、それぞれ420円と490円となる。これらに出荷量を掛けて試算した「市田柿」のブランド価値は8億円程度からおよそ9億2千万円に増加しており、商標取得戦略が有効であったと評価される(図2)。
- このように、プレミアム価格法を適用して地域ブランドの価値を推計することにより、ブランド戦略の効果を簡易に計測することが可能となる。
成果の活用面・留意点
- 地域ブランドのブランド戦略の効果を計測する際に活用できる。
- 価格差ではなく市場シェアを重視したブランド戦略を採る場合には、消費者のブランド認知状況を測定する他の方法をプレミアム価格法と併用することが望ましい。
具体的データ
その他
- 中課題名:消費者ニーズの高度分析手法及び農業と食品産業の連携関係の評価・構築方法の開発
- 中課題整理番号:330e0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2013~2015年度
- 研究担当者:森嶋輝也、河野恵伸、大西千絵
- 発表論文等:森嶋(2016) 地域ブランドを核とした食料産業クラスターの形成「フードシステム革新のニューウェーブ」、日本経済評論社、東京