半導体素子を用いた細胞活性測定装置の開発

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

細胞の粘弾性、付着性といった物理的特性は細胞の状態・機能と直接的にあるいは間接的に関係している。
従来のガラスマイクロピペットを用いる困難な計測法に代わるものとして、半導体微細加工技術により製作したマイクロチャンネルを用いる計測法を開発し、さらに血液細胞を対象にした操作性の良いプロトタイプ装置を完成した。

  • 担当:食品総合研究所・食品工学部・計測工学研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8021
  • 部会名:食品
  • 専門:食品品質
  • 対象:
  • 分類:研究

背景

細胞の粘弾性・付着性といった物理的特性を計測することは、それらが細胞の機能・状態と直接的にあるいは間接的に関係しているため、機能計測法としても大きな意義を持っている。
しかし、対象がミクロンサイズであるため実際の計測には多くの困難を伴い、多くの場合、信頼性・定量性のある計測法は実現していない。
例えば、これまで、頭微鏡下にマイクロマニピュレーターを用いてガラスマイクロピペットを操作する方法で上記の諸特性が計測されてきたが、その手技は極めて難しく、多数の細胞について計測することはさらに困難であり、実用的になり得るものではなかった。
本研究では、マイクロピペットの代わりにマイクロチャンネルを用いて細胞の通過特性を測定する方法を検討し、そのマイクロチャンネルの製作に先端技術である半導体微細加工技術を用いることで、信頼性・定量性に要求されるチャンネルの微細な形状及び加工精度を達成することを考えた(図1)。
さらに多数の細胞についての計測を可能にするため、このマイクロチャンネルを組み込んだセルフローシステムを構成することを検討した。
また、主な計測対象には、その機能・活性とカ学的特性の関係がより明瞭であること、食品成分の健全性・機能性評価に不可欠な材料であること、などから血液細胞(赤血球、白血球、血小板)を選んだ。

成果の内容・特徴

  • 本方法では、集積回路の製作とは異なり、シリコン基板表面に対する深いかつ立体的な加工が要求され、そのプロセス、特に数ミクロンを切る精度を要求されるプロセスにはなお多くの技術的課題を残している。フォトマスク密着露光、ポジフォトレジストの使用、異方性エッチングの条件の確立などにより、要求されるサブミクロンの加工精度を達成し得ることが示された。
  • 流れの障害となる気泡を防ぎ、微少な流路に細胞浮遊液を安定に流す技術を確立した。
  • 流路を通過する細胞を明瞭に観察するには強拡大と深い焦点深度が不可欠である。両者は互いに相反する条件であるが、両立させる方法を見いだし、明瞭な観察を可能にした(図3)。
  • ヒト血液試料に対して得られた流路通過速度と圧カ勾配の比はグin vivoでの毛細血管における計測値ないし推定値と良い一致を示した。一定圧力差の下での流路通過抵抗が赤血球変形能および白血球遊走能・付着能の、また流路閉塞率が血小板凝集能の良い指標となることが示された。
  • 上記血球機能に関する従来の計測法に比べて、一桁以上の定量性・感度の向上が得られた。
  • 健常者から得た血液試料について計測した結果、赤血球変形能、白血球の刺激感受性および血小板凝集能にかなりの個人差が認められ、食事・食生活の影響が推定された(図2)。
  • 米譲造酢(くろず)中に上記血球機能を修飾する成分の存在を認めた。
  • 操作性の良いプロトタイプ装置を完成した。

成果の活用面・留意点

本装置により計測される血液細胞の性質は、血液レオロジーを左右する主要因子であり、健康・疾患との関わりが大きい。
食品の健全性・機能性評価を含む予防医学および臨床医学に活用されることが期待される。それには多数の施設での本装置の試験評価が求められよう。

具体的データ

図1 シリコン単結晶基板に加工したマイクロチャンネル
図2 白血球刺激物質FMLPおよび血小板凝集誘発物質ADPを加えた時の血液試料の流量曲線の変化
図3 マイクロチャンネルを通過する赤血球

その他

  • 研究課題名:半導体素子を用いた細胞活性測定装置の開発
  • 予算区分:交流共同研究
  • 研究期間:平成5年度(平成3~5年)
  • 研究担当者:菊池祐二
  • 発表論文等:Optically Accessible Microchannels Formed in a Single-Crystal Silicon Substrate for Studies of Blood Rheology, Microvasc. Res., 44(2), 226-240(1992)
                      Quick Transit of Red Cell Aggregates Through Silicon Microchannels and Role of Red Cell Deformability, Microcirculation Annual, 8, 25-26(1992)
                      Modified Cell-Flow Microchannels in a Single-Crystal Silicon Substrate and Flow Behavior of Bloood Cells, Microvasc. Res., 47(1), 126-139 (1994)