共通プライマー利用による脊椎動物DNAの高精度鑑別

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要約

PCRを用い、脊椎動物の組織からシトクロムb遺伝子の一部を増幅する方法を確立した。増幅したDNAの塩基配列を比較することにより、従来の手法では困難であった動物種の鑑別が可能となった。

  • 担当:食品総合研究所・素材利用部・蛋白素材研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8041
  • 部会名:食品
  • 専門:食品品質
  • 対象:家畜類
  • 分類:研究

背景

生物の分類や鑑別を行うためにはDNAの塩基配列を決定し、比較することが最も確実な方法である。PCR法は少量の試料からDNAを増幅することができるが、通常は塩基配列の知られているDNAしか増幅できない。そこで塩基配列が未知の動物種にも適用できるプライマーをミトコンドリアのシトクロムb遺伝子の領域に設計し、増幅されたDNA断片の塩基配列を決定し、比較する。

成果の内容・特徴

  • すでに決定されているヒト、マウス、ウシ、ニワトリのミトコンドリアDNAシトクロムb遺伝子の塩基配列を比較し、プライマーを作成した。その配列は5'-CAAATCCTCACAGGCCTATTCCTAGC-3'と5'-TAGGCGAATAGGAAATATCATTCGGGTTTGAT-3'である。
  • このプライマーを使用したPCRで哺乳類、鳥類、魚類からシトクロムb遺伝子の一部646bpを増幅することができた。
  • PCR産物の塩基配列を決定した結果、ヒツジ、ヤギ、ニホンカモシカといったヤギ亜科の近縁種でも約10%の違いがあった(表1)。鳥類でもキジ科に属するニワトリとウズラの間に約14%の違いがあり、塩基配列に基づく種の識別が可能であった。
  • PCR産物を適当な制限酵素で切断し、電気泳動することによって、簡易で高精度の鑑別を行うことができるようになった。多くの種は1種類の制限酵素処理で判定可能となり、また複数の制限酵素を用いることでより精度の高い判定とすることもできた(図1)。

成果の活用面・留意点

野生生物の肉を特定することが可能である。また広範囲の種の塩基配列を決定できることから、種の分化の研究に用いることもできる。ただし、試験に用いた一部の鳥類では、このプライマーを用いたPCRで目的の領域を増幅することができず、これらの種については別のプライマーを設計する必要がある。

具体的データ

表1 哺乳類のシトクロムb遺伝子646bpのホモロジー
図1 制限酵素Taq1によるPCR産物の切断型の比較

その他

  • 研究課題名:種間比較のための共通プライマーの開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度(平成4~5年)
  • 研究担当者:千国幸一・門間美千子・斎藤昌義
  • 発表論文等:シトクロムb遺伝子の塩基配列の違いによる肉種鑑別、日本畜産学会誌、65巻 6号、1994