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酵母のトレハロース合成系の構成的活性化とトレハロース分解酵素の遺伝子破壊により種々の条件下でもトレハロースを高蓄積する株を育種でき、冷凍耐性も親株に比べ強かった。
冷凍生地製パン用に開発された冷凍耐性酵母の耐性機構の解明と、冷凍などのストレスに対する細胞内の受容・伝達・応答の制御機構の解明を目的とする。酵母の冷凍耐性は細胞内トレハロース量との間に相関が認められたため、トレハロースの代謝制御系の改変によるトレハロース高蓄積株の作出を行い、高ストレス耐性株の作出をねらった。
トレハロースの含成は、誘導型のトレハロース-6-リン酸合成酵素が律速段階となる。同酵素の活性化蛋白をコードするGGS1(TPS1)遺伝子を構成的に発現させるために、同遺伝子ORF領域と酵母PDC1遺伝子のプロモータ領域を融合させた遺伝子の酵母への形質転換を行った。増殖時期の違いによる酵母細胞内のトレハロース含量と冷凍処理後の生存率(冷凍耐性)を測定した結果、対数増殖期の細胞においてGGS1遺伝子を構成的に発現させた株の方が親株に比べてトレハロース含量、冷凍耐性が上昇する傾向がみられ、両者の間の相関性も高かった(図1)。静止期細胞では親株もトレハロース量が高くなるため顕著な差はなかった(図2)。また、トレハロースを急激に蓄積するheat shock処埋とそれに続く回復処理時における細胞内トレハロース量と冷凍耐性も構成的に発現させた株の方が高かった(図3)。トレハロースを分解するトレハラーゼをコードするNTH1遺伝子を破壊した株についてもheat shock処理を行ったところ、親株に比べてトレハロース含量、冷凍耐性が上昇した(図4)。
同一株を使用して細胞内トレハロース合量と冷凍耐性に相関が認められ、冷凍耐性はトレハロース量に強く影響されていることが証明された。しかし、細胞内トレハロース量が低くても生存率が高い株があるなど菌株間で分散しており、トレハロース以外の要因も関係していると考えられた。今後はトレハロース以外の要因の追跡とトレハロース代謝系を人為的に変異させた株を作出できると考えられるので、各種のストレス耐性を持つ実用可能な株の育種を目指す。