生体膜成分の機能解明と発現機構の解明
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要約
本研究において液胞膜を介してのATP依存性プロトン輪送の低下が低温耐性を決める重要な要因であることを明らかにした。この低温によるプロトン輸送の低下は低温が直接プロトンポンプに作用することによるよりむしろ、プロトンポンプを取り巻くリン脂質を介して作用することを明らかにした。
- 担当:食品総合研究所・生物機能開発部・分子情報解析研究室
- 代表連絡先:0298ー38ー8063
- 部会名:食品
- 専門:バイテク
- 対象:稲類
- 分類:研究
背景
細胞膜および細胞内小器官等の生体膜は低温ストレスに感応する最初の反応の場と考えられる。特に液胞膜に存在するH+-ATPaseの強弱が耐冷性とどのような関連があるのか、またあるとすればどのような機構で起こるのかを、我々が開発したイネのH+-ATPaseをリン脂質リポゾームに埋め込む再構成膜小胞を用いて明らかにする。さらに、生体膜内におけるリン脂質の質的変化がプロトン輸送や耐冷性とどのように関与するのかを明らかにする。
成果の内容・特徴
- 低温処理(5°C)によって低温耐性の弱いイネ(Boro)やモヤシマメの液胞膜小胞を介してのプロトン輸送は著しく低下したが、低温耐性の強いイネ(Nipponbare)ではほとんどその低下はみられなかった(図1)。
- しかし、低温耐性の弱いイネで低温処理したものとしないものから得た液胞膜ATPaseをリポゾームヘ再構成したプロテオリポゾームを介してのプロトン輪送は、両者においてほとんど差はなかった(図2)。
- 低温耐性の弱いイネの液胞小胞におけるプロトン輸送は15°Cではほとんどみられなかったが、低温耐性の強いイネでは著しく観察された。
- 低温耐性の弱いイネから得た液胞膜H+-ATPaseの再構成膜小胞を介してのプロトン輸送の温度依存性は、低温耐性の強いものから得たそれとほとんど差はなかった。
- 低温耐性の弱いイネの細胞に低温処理すると、液胞膜のリン脂質の不飽和脂肪酸の含量が著しく増加した(表1)。
- 不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸に比べ低濃度で著しくH+-ATPase活性を低下させた(図3)。
- 以上のことから、低温ストレスによる液胞膜ATPaseによるプロトン輸送の低下は、低温処理によるリン脂質を構成する不飽和脂肪酸の増加あるいは遊離不飽和脂肪酸の増加によって引き起こされていると思われる。
成果の活用面・留意点
プロトンポンプ分子にリン脂質の分子がどのように作用するのかなど両者の相互作用を分子レベルで明らかにする。さらには、膜に存在する機能性蛋白質の機能発現に関与する脂質の役割を種々の蛋白質で検討する。
具体的データ




その他
- 研究課題名:生体膜成分の機能解明と発現機構の解明
- 予算区分:大型別枠(生物情報)
- 研究期間:平成5年度(昭和63年~平成5年)
- 研究担当者:笠毛邦弘、山西弘恭
- 発表論文等:Low temperature‐induced changes inthethermotropic properties and fatty acid composition of the plasma membrane and tonoplast of cultured rice(Oryza sativa L.)ce11s.Plant Cell Physiol.33:609-616(1992)
Phospholipid-specific activation of plasma membrane H+-ATPase.Current Topics in Plant Physiology:An American Society of Plant Physiologists Series Volume 9:247-255(1993)
植物の細胞膜プロトンポンプの分子構造と機能調節 膜 18巻1号 24-33(1993)
Modulation of the activity of purified tonoplast H+-ATPase from mung bean hypocotyls by various lipids.Plant Cell Physiol.34:411-419(1993)