n-3系多価不飽和脂肪酸が脂肪酸酸化系酵素の遺伝子発現に与える影響
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要約
脂肪酸酸化系酵素の活性と遺伝子発現の計測により、エゴマ油(α-リノレン酸)と魚油(EPA、DHA)の生理作用の違いはカルニチンパルミトイル転移酵素Iの遺伝子発現の差異に基づくことを明らかにした。
- 担当:食品総合研究所・食品機能部・栄養化学研究室
- 代表連絡先:0298-38-8083
- 部会名:食品
- 専門:食品品質
- 対象:油脂
- 分類:研究
背景
α-リノレン酸(α-18:3)およびエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は肝臓脂肪酸酸化系の活性上昇を通じて血清脂質低下を引き起こす。そこで、本研究ではα-18:3に富むエゴマ油とEPAやDHAに富む魚油が肝臓脂肪酸酸化系酵素の活性とその遺伝子発現に与える影響を動物実験により比較した。
成果の内容・特徴
- エゴマ油および魚油はパーム油(飽和脂肪)およびサフラワー油(リノール酸)よりもラット肝臓のペルオキシゾーム脂肪酸酸化活性を増加させた。しかし、ミトコンドリアの脂肪酸酸化活性はエゴマ油でのみ増加した。このように、脂肪酸酸化系に与える影響は両者で明らかに異なっている(図1)。
- エゴマ油と魚油は脂肪酸酸化系の多くの酵素の活性を増加させたが、3-ヒドロキシアシル-CoA脱水素酵素の活性を低下させた。活性低下は短鎖の基質を用いた場合顕著であった(表1)。
- 脂肪酸酸化系では各々のステップに複数の酵素分子が関与するため、酵素化学的手法のみではその制御機構の詳細な解析は困難である。そこで、いくつかの酵素mRNAに特異的なDNAプローブを用い遺伝子発現量を計測した(表2)。その結果、ミトコンドリア脂肪酸酸化活性に対しての両油脂の作用の違いはカルニチンパルミトイル転移酵素Iの発現量の違いによるもであることがわかった。また、n-3系多価不飽和脂肪酸による3-ヒドロキシアシル-CoA脱水素酵素活性低下はミトコンドリアとペルオキシゾームの三頭酵素以外の酵素分子の発現量の違いによると推察された。
- 脂肪酸酸化系酵素遺伝子発現の調節因子である、核内リセプター、ペルオキシゾーム誘導剤活性化リセプター(PPARα)およびレチノイドXリセプターα(RXRα)の遺伝子発現はエゴマ油と魚油により増加した(図2)。
成果の活用面・留意点
食品が持つ多様な生理機能を遺伝子発現を指標として解析することにより、機能の明確化とその発現機構の解明が期待される。本研究は、遺伝子発現を指標とした解析がn-3系多価不飽和脂肪酸による脂肪酸酸化系制御機構の解明に極めて有効であることを示した。
具体的データ




その他
- 研究課題名:脂質構造が代謝・整理機能特性に及ぼす影響の解明
- 予算区分:大型別枠
- 研究期間:平成8年度(平成3年~9年)
- 研究担当者:井手 隆
- 発表論文等:Takashi Ide, Masakazu Murata Michihiro Sugano (1995) Octadecatrienoic acid as the substrate for the key enzymes in glycerolipid biosynthesis and fatty acid oxidaition in rat liver. Lipids 30,755-792.
Takashi Ide, Masakazu Murata Michihiro Sugano (1996) Stimulation of the activities of hepatic fatty acid oxidation enzymes by dietary fat rich in α-linolenic acid in rat. J.Lipid Pes. 37, 448-463.
Yearul Kabir and Takashi Ide (1996) Activity of hepatic fatty acid oxidation enzyme in rats fed α-linolenic acid. Biochim. Biophys. Acta 1304,105-119.