マイクロチャンネル通過能の差による細胞の分離・選別法

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要約

幅6mm、深さ4.5mm、長さ20mmのマイクロチャンネルに対するパン酵母の通過能は細胞壁の状態・物性によって0%から100%まで変化し、また白血球の通過能は活性化に伴い反対に100%から0%まで変化する。マイクロチャンネル通過能の差を用いて状態・機能・活性の違う細胞を分離・選別する手段を開発した。

  • 担当:食品総合研究所・食品工学部・上席研究官
  • 代表連絡先:0298-38-8021
  • 部会名:食品
  • 専門:バイテク
  • 対象:
  • 分類:研究

背景

細胞を種類別に分離・選別することに加えて、同一種類の中でも状態・機能・活性の違いに基づいてさらに細胞を分離・選別することが求められてきている。特に細胞の機能を高度に利用することを目的とするバイオテクノロジーではその要請が強い。しかし、現在、このような分離を短時間に行いうる有用な方法は開発されておらず、非効率の一因になっている。
一般に細胞の粘弾性特性や粘着性などの力学的性質はその状態・機能・活性と密接なあるいは不可分の関係にあり、それらの力学的性質の差に基づいて細胞を分離・選別する方法が考えられる。しかし、対象がミクロンサイズであることや形状が均一でないことなどから実際の力学的性質の定量的な測定やその利用には大きな困難が伴う。
細胞の大きさより小さい径の微細流路(マイクロチャンネル)に対する細胞の通過能は、いうまでもなく細胞の機械的変形特性や粘着能に大きく依存する。シリコン単結晶基板表面に加工した微細な溝をマイクロチャンネルとして用いる技術をもとに、マイクロチャンネル通過能による細胞の分離・選別の可能性を検討した。

成果の内容・特徴

  • 非栄養状態のパン酵母は幅6mm(深さ中間点における幅)、長さ20mm、深さ4.5mmのマイクロチャンネルを20cm水柱差で全く通過できなかった(図1)。200cm水柱差でも同様であった(図2)。
  • 対数増殖期にある細胞からZymolyase(生化学工業)処理により調製したプロトプラストは上記マイクロチャンネルを容易に通過した(図3)。
  • 細胞壁が存在する場合でも、60%エタノールに暴露すると上記マイクロチャンネルを通過できるようになった(図4)。
  • ヒト白血球(好中球)を走化性ペプチドFMLP(1-10nM)に暴露するとFMLP濃度の増加と共に上記マイクロチャンネル通過時間が延長し、10nMでは実質的に通過能がなくなった(図5、6)。

成果の活用面・留意点

実際的な使用では、細胞によるマイクロチャンネルの閉塞を防ぐことが必要である。現在その方法を開発中である。

具体的データ

図1

その他

  • 研究課題名:流体回路を用いた細胞分離法の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成8年度(平成5年~平成8年)
  • 研究担当者:菊池佑二
  • 発表論文等:微細加工チャンネルアレイを用いた細胞選別―パン酵母を用いた検討―、日本機械学会第9回バイオエンジニアリング講演会要旨集、1997.