納豆菌の粘質物生産に関与する遺伝子の構造と機能解析

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要約

納豆の糸引きに関与する遺伝子をトランスポゾンクローニング法により単離した。この遺伝子は枯草菌comP遺伝子と相同であり、対数増殖停止後の菌体外酵素やサーファクチンの生産をコントロールしている。また自然突然変異により糸引き能が欠損した納豆菌にはこの遺伝子の近傍に1.5kbpのDNA断片が挿入されていた。

  • 担当:食総研・応用微生物部・発酵細菌研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8075
  • 部会名:食品
  • 専門:バイテク
  • 対象:大豆
  • 分類:研究

背景

納豆菌の粘質物の主成分はポリグルタミン酸であり、その多少は糸引き納豆の品質を左右する。この物質の生産量は培地成分や培養条件によって大きく影響を受けるがそのメカニズムに関してはあまり知られていない。また納豆菌のポリグルタミン酸生産は遺伝的に不安定であることが生産現場や納豆菌の育種においてはしばしば問題になっている。そこで本研究ではこの菌よりポリグルタミン酸生産に関与する遺伝子を単離し、その構造と機能を解明することによって「納豆の糸引きの強さはいかに調節されるのか」また「それはなぜ不安定性なのか」という疑問に答えることを目的としている。

成果の内容・特徴

  • トランスポゾンTn917-LTV1を含む温度感受性プラスミドpLTV1を納豆菌に形質転換した。高温培養による染色体へのトランスポゾン挿入の結果、ポリグルタミン酸生産能を欠損した変異株を選抜した。この株の染色体からライブラリを作製し、Tn917-LTV1近傍の1.4kbp DNA断片をプローブとしてプラークハイブリダイゼーションを行い、トランスポゾンによって不活化された遺伝子を含むクローンを得た(図1)。塩基配列決定の結果、この遺伝子は枯草菌168株のcomP遺伝子と相同であることが判明した(図2)。
    168株では、この遺伝子は対数増殖後のDNA取り込み、プロテアーゼやアミラーゼなどの菌体外酵素ならびに二次代謝産物(サーファクチン)の生産の制御に関与することが知られている。またその遺伝子産物であるComP蛋白は細胞外部の情報をキャッチするシグナルセンサードメインとその情報をリン酸基転移によって細胞内部の蛋白質にリレーするヒスチジンキナーゼドメインを持つことが知られている。納豆菌のComP蛋白のヒスチジンキナーゼドメインのアミノ酸配列は枯草菌のそれと90%以上の相同性を示したが、シグナルセンサードメインは45%の相同性しか示さなかった(図3)。
  • 自然突然変異によって生じたポリグルタミン酸非生産株の染色体構造を解析するためにTn917-LTV1挿入点近傍のDNA断片を用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。変異株には1.5kbpの挿入が生じており、これが納豆菌のポリグルタミン酸生産の遺伝的不安定性の原因であることが示唆された。

成果の活用面・留意点

納豆菌の自然突然変異株のcomP遺伝子近傍にどのようなDNA断片が、どのような特異的なメカニズムで組み込まれるのかは、今後明らかにしていきたい。

具体的データ

図1図2
図3

その他

  • 研究課題名:納豆菌の粘質物生産に関与する遺伝子の構造と機能解析
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成8年度(平成6年~8年)
  • 研究担当者:稲津康弘、伊藤義文
  • 発表論文等:永井・伊藤、日本食品科学工業学会 第42回大会要旨集 p.135 (1995)
                      Nagai&Ito UJNR Protein Resoures panel 24th (1995)
                      永井・伊藤、日本食品科学工業学会 第43回大会要旨集 p171 (1996)
                      永井・稲津・西条・伊藤、日本農芸化学会 97年度大会要旨集 p67 (1997)